2022 Fiscal Year Research-status Report
成体組織幹細胞からホルモン産生細胞への分化トリガーを同定する
Project/Area Number |
22K06798
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
堀口 幸太郎 杏林大学, 保健学部, 准教授 (10409477)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 下垂体前葉 / CD9 / 組織幹細胞 / 細胞表面抗原 / ニッチ / 下垂体腺腫 / SOX2 |
Outline of Annual Research Achievements |
成体の組織幹細胞は、ニッチと呼ばれる周囲環境によって制御されて、組織内の細胞供給源となる。内分泌器官である下垂体前葉には、PrimaryニッチとSecondaryニッチが存在する。申請者らは、ラットを使い、Primaryニッチ内の組織幹細胞が細胞表面抗原CD9を発現し、Secondaryニッチへ移動・増殖し、血管内皮細胞とホルモン産生細胞を供給することをこれまでに報告した。本研究の目的は、プロラクチン(PRL)細胞、成長ホルモン(GH)細胞、甲状腺刺激ホルモン(TSH)細胞それぞれが増加する腫瘍化モデルラットでのPrimaryニッチにおける組織幹細胞の分化開始を組織学的に観察し、さらに申請者が成功したラット下垂体前葉組織幹細胞の純化法を利用して、それぞれのモデルラットにおけるPrimaryニッチのCD9/SOX2陽性細胞を単離し、RNA sepを利用し、分化開始因子、腫瘍化開始因子を同定するという2点である。2022年度は、ジエチルスティルベストロールを投与してPRL細胞腺腫を引き起こしたラットの作成、生理条件でPRL細胞の増加が見られる妊娠ラットの利用、GH産生腺腫を引き起こす成長ホルモン放出ホルモンを腹腔投与したラット、TSH産生腺腫を引き起こすプロピルチオウラシルを飲水投与したラットを作成した。分化開始時のCD9/SOX2、各ホルモンに対する免疫組織化学染色によって陽性となる細胞数を計測した。その結果、Primaryニッチにおいて、PRL細胞増殖時において、組織幹細胞であるCD9/SOX2両陽性細胞の割合が減少していた。これらの結果は学会にて発表し、論文掲載された。さらに、それぞれのモデルラットとコントロールラットのPrimaryニッチの組織幹細胞を申請者が確立した方法で単離し、RNA seq解析を外部に委託注文した。その結果を現在解析中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラット下垂体前葉のPrimaryニッチであるマージナルセルレイヤーのCD9/SOX2陽性細胞がCD9陽性、SOX2陰性、ホルモン陽性を示す分化途中の細胞が免疫染色で確認できることを報告している(Horiguchi et al. Histochem Cell Biol. 2021)。では、その分化開始トリガーは何か。その解明のために、申請者は、それぞれのホルモン産生細胞特異的に増殖するモデルラットを作成した。GH細胞増加には、ラット飼育時の床敷きの代わりに水深1㎝の水を張って5日間飼育する水ストレス後に通常の床敷きに戻して2日間リカバリーすることで引き起こした。さらにGH放出ホルモンを腹腔投与することでGH産生腺腫ラットを作成した。またPRL産生腺腫ラットとして、エストロゲンアナログであるジエチルスティルベストロールを投与して作成し、さらに妊娠ラットではPRL細胞が増加するためそれを利用した。TSH産生腺腫モデルラットとして、プロピルチオウラシルを飲水投与したラットを作成した。この特定のホルモン産生細胞増加はCD9/SOX2陽性細胞からの分化と想定される。本研究では、その分化開始時のCD9陽性、SOX2陰性、各ホルモンに対する免疫組織化学染色に陽性となる細胞とその数をPrimaryニッチとSecondaryニッチで計測した。その結果、CD9/SOX2細胞の分化に進んだ細胞分布を把握できた。そして、モデルラットとコントロールラットのPrimaryニッチの組織幹細胞を申請者が確立した方法で単離し、RNA seq解析を外部に委託注文し、そのデータ解析を行っている。既に2報の投稿論文が掲載されており、1報リバイス中である。研究業績から鑑みても当初の計画通りに進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、RNA seqのデータ解析を行う。特に分化が正にスイッチした時のCD9/SOX2陽性細胞内因子の網羅的な解析を進めている。つまりGH、TSH、PRL細胞へ分化するとき、腫瘍化するときのトリガー候補因子を抽出している。現在までに、Notchシグナルに関する遺伝子群の変化、そしてWNTシグナルに関する遺伝子変化が起きていることを示唆させるデータを得ている。今後、これらのシグナル分子の下垂体前葉でのリアルタイムPCR、in situ hybridizationを用いた発現解析、免疫組織化学を用いた局在観察を行う。さらに、Primaryニッチに存在するCD9/SOX2陽性細胞を単離し、その細胞における発現解析を行っていく。そして、発現が見られた分子からさらに候補を絞っていく。そして、単離した組織幹細胞であるPrimaryニッチに存在するCD9/SOX2陽性細胞にそれら遺伝子発現をsiRNAによって抑制させ、分化誘導を引き起こした際の分化効率を計測し、どのシグナル分子が分化促進トリガーになりえるのかを同定していく予定である。 以上を明らかにしていくことで、下垂体前葉の組織幹細胞からのホルモン産生細胞分化トリガー、腫瘍化トリガーの解明に繋がる。
|
Research Products
(10 results)