2022 Fiscal Year Research-status Report
ミトコンドリア機能異常による双極性障害の病態基盤解明
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22K06832
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
松下 正之 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30273965)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高松 岳矢 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90801431)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 精神疾患 / 双極性障害 / ミトコンドリア / ゲノム解析 / 家系 |
Outline of Annual Research Achievements |
双極性障害は遺伝的な影響が強く、躁と鬱を繰り返す病状であるため臨床的に確定診断がつきやすい。双極性障害では、臨床診断の明確さと遺伝的影響力の強さから遺伝研究が盛んに行われているが原因遺伝子の同定や発症機序は未解明である。多くの精神疾患は分子病態が未解明であるが、統合失調症においてスコットランドの大規模家系のゲノム解析によりDISC1遺伝子を発見したことが成功例として考えられている(Human Mol Genetics 9:1415, 2000)。つまり、多因子で多彩な病状を示す精神疾患においては、原因遺伝子が家系内で強く浸透している大規模家系を臨床から分子のレベルで統合的に研究することが病態を明らかにする上で有効な研究手法であると考えられる。患者由来のiPS細胞から効率に神経細胞を誘導することが可能となり、患者神経細胞の病態をイメージングや電気生理学的手法を用いて生きた細胞で解析することが可能となった。さらに、精神疾患や代謝疾患に代表される多因子疾患のゲノム解析が次世代シークエンサーの発展に伴い急速に広がり大きな成果を挙げている。このような状況で、私たちは県内の精神科病院の協力を得て家系調査を行い、大規模な双極性障害家系を発見した。この家系から血液を採取し、ゲノム解析と疾患iPS細胞を用いた病態解析を進めた。これまでの成果として、この家系のゲノム解析で疾患関連の連鎖領域を1番染色体に見出し、その連鎖領域の詳細なゲノム解析や最新の技術を用いた遺伝子発現解析によりミトコンドリア機能を制御する疾患候補遺伝子を同定し、iPS細胞から神経細胞誘導後のミトコンドリア機能解析やイメージングを実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私たちは双極性障害の大家系を発見し、ゲノム解析により染色体1番の連鎖領域を同定した。さらに、この疾患連鎖領域内に存在する遺伝子群のハプロタイプ特異的なプライマーによる患者と健常者の遺伝子発現変化を次世代シークエンサーによるAllele-Specific Transcription Analysisにより行った。その結果、ミトコンドリア代謝制御関連遺伝子の患者群での特異的な低下を見出した。さらに、患者3名(双極性障害I型)、家系内健常人3名、家系外健常人3名について各3クローンのiPS細胞を核型解析や分化能などを検証し樹立した。このiPS細胞から誘導した神経細胞のでのミトコンドリア機能など以下の実験を進めている。 ①疾患iPS細胞からの誘導神経細胞を用いた形態解析:誘導神経細胞での神経細胞の形態の比較観察を、細胞骨格(MAP2など)、シナプス形成(Piccolo、シナプシン、PSD95など)、ミトコンドリア形態などを免疫組織学的に健常人と患者細胞で検討した。これまでの研究で、神経突起の伸長や分岐には異常がないことが明らかになった。シナプス構造検討のために、シナプス形態の変化をプレ・ポストシナプス特異的なマーカで免疫染色を行い、詳細を明らかにする。 ②疾患iPS細胞からの誘導神経細胞を用いたミトコンドリ機能解析:ミトコンドリアをライブセルイメージングで観察し、形態変化や膜電位変化の検証を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
私たちは、世界的に稀な双極性障害の大家系からのゲノム解析や発現解析により、疾患連鎖領域内に存在するミトコンドリア制御遺伝子の発現が疾患群で特異的に低下していることを発見した。このミトコンドリア制御遺伝子の機能解析を生化学的、細胞生物学的に進める予定である。患者由来iPS細胞を樹立し、その細胞から誘導した神経細胞でミトコンドリア機能と神経細胞の形態変化、細胞内カルシウム濃度変化、セロトニンなどの伝達物質による神経活動変化などを患者と非罹患者で比較検討を行う予定である。以下の基礎的にも臨床的にも重要な意味を持つ独創的な成果が期待される。これらの目的のために、患者と非罹患者の誘導神経細胞に、セロトニンなどの伝達物質、薬剤などを添加し、ミトコンドリア制御遺伝子の発現変化、ミトコンドリア形態・膜電位変化などを検討する事により、新たな分子病態メカニズムの解明を目指す。
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Causes of Carryover |
ミトコンドリアイメージング実験が使用機材の故障などで遅れたため、解析のための消耗品購入代金が次年度に持ち越された。これらの消耗品は購入予定である。
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[Journal Article] Generation of four iPSC lines from a family harboring a 1p36-35 haplotype linked with bipolar disorder and recurrent depressive disorder: Three-generation patients and a healthy sibling2022
Author(s)
Takamatsu G, Manome Y, Lee JS, Toyama K, Hayakawa T, Hara-Miyauchi C, Hasegawa-Ogawa M, Katagiri C, Kondo T, James Okano H, Matsushita M.
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Journal Title
Stem Cell Res
Volume: 64
Pages: 102915
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Haplotype phasing of a bipolar disorder pedigree revealed rare multiple mutations of SPOCD1 gene in the 1p36-35 susceptibility locus2022
Author(s)
Takamatsu G, Yanagi K, Koganebuchi K, Yoshida F, Lee JS, Toyama K, Hattori K, Katagiri C, Kondo T, Kunugi H, Kimura R, Kaname T, Matsushita M
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Journal Title
J Affect Disord
Volume: 310
Pages: 96-105
DOI
Peer Reviewed / Open Access