2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K06874
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
今城 正道 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (00633934)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 腸上皮細胞 / 胎児化 / 合成ハイドロゲル / 大腸癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸上皮は人体で最も細胞の新陳代謝が速い組織であり、幹細胞からの組織更新により絶えず細胞が置き換えられている。この活発な組織更新を反映して腸上皮は癌化しやすく、大腸癌の罹患率は全ての癌の中でも上位を占めている。近年、腸上皮の高い再生能を支え、大腸癌の発生にも関わるメカニズムとして、幹細胞の胎児化が注目されている。本研究では、申請者が独自に開発した腸上皮幹細胞の胎児化誘導法を用いて、幹細胞胎児化の分子機構を解明し、腸上皮腫瘍の形成過程における幹細胞胎児化の意義を明らかにすることを目的としている。 今年度は先ず、腸上皮細胞の培養に用いる合成ハイドロゲルの最適化を行った。その結果、特定範囲の正荷電を有するゲル上で腸上皮細胞が効率よく接着し、増殖することを見出した。次に、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析を行い、このハイドロゲル培養後の腸細胞では、全般的な遺伝子発現状態が胎児腸上皮様に変化する(胎児化する)ことを示した。さらに、発現変動遺伝子のプロモーター解析により、遺伝子発現変化を担う転写制御因子の候補を多数同定した。これらの因子のうち、Hippo経路のエフェクター分子であるYAPについては、過剰発現により合成ハイドロゲルによる腸上皮細胞の胎児化を促進することも示した。従って、合成ハイドロゲル上での培養は、腸上皮細胞においてYAPを活性化することで、胎児化を誘導すると考えられる。さらに、ヒト大腸癌細胞株においても、合成ハイドロゲル上での培養は、胎児腸特異的遺伝子の発現を誘導した。以上のように本年度は、合成ハイドロゲルによる腸上皮細胞の胎児化誘導法の最適化を行い、大腸癌細胞においても胎児化の誘導に成功した。また、胎児化誘導に関わる分子としてYAPを同定するなど、次年度以降の研究に繋がる成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、本年度の研究では先ず予定していた合成ハイドロゲルの最適化を行い、正電荷を持つゲルが最も効率よく腸細胞の接着や増殖を支持することを明らかした。その後、当初から予定していたRNA-seqによる遺伝子発現解析と発現変動遺伝子のプロモーター解析を行い、腸細胞の胎児化過程で起きる遺伝子発現変化の全体像を明らかにするとともに、複数の転写制御因子を胎児化の誘導に関わる因子の候補として同定した。これらの候補因子の一つであるYAPについては、実際に機能解析により胎児化への関与が示されており、ハイドロゲルによる腸細胞の胎児化機構の一端を解明することが出来た。さらに、合成ハイドロゲルによる胎児化の誘導は、正常腸上皮細胞だけでなく大腸癌細胞株にも応用可能であることも示された。このことは、胎児化が大腸癌の形成や進行にどのように関わるか調べる上で、重要な意義を持つと考えられる。このように、本年度の研究では、当初予定していた研究計画を着実に遂行し、期待される成果に結びつけることが出来た。そのため、研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では先ず、合成ハイドロゲルによる腸細胞の胎児化機構をさらに詳細に解明する。そのために、胎児化への関与が示されたYAPの上流因子を同定する。これまでの研究により、YAPの上流の制御因子としてHippo経路やGPCR経路、SRCなどが知られており、これらのうちどの因子がハイドロゲル培養下でのYAPの活性化を担うのか調べる。また、プロモーター解析で関与が予想された他の転写制御因子についても、機能解析を行い、胎児化の制御に関わるか検討する。胎児化を制御することが示された転写制御因子については、さらに上流の制御因子について解析を進める。これらの解析により、合成ハイドロゲルがどのようなシグナル伝達経路を介して転写制御因子の活性を変化させ、胎児化を誘導するのか明らかにする。 次に、腸上皮細胞の胎児化の大腸癌における意義を調べる。そのために、胎児化を誘導した正常腸上皮細胞に大腸癌で見られる種々の遺伝子変異を導入し、免疫不全マウスに移植して、腫瘍形成能を解析する。それにより、胎児化の有無により、癌の形成や進行、あるいは形成される癌組織の性状が変化するか調べる。これと並行して、ヒト大腸癌細胞株においても免疫不全マウスにおける腫瘍形成実験を行い、胎児化の有無によって腫瘍の形成や成長、腫瘍組織の状態が変化するか検討する。これらの検討により、腸細胞の胎児化が大腸癌の発生や進行に与える影響を明らかにする。最後に、ヒト大腸癌細胞において、ハイドロゲルによる腸上皮細胞の胎児化を仲介する分子の発現抑制もしくは過剰発現を行い、腫瘍形成能や形成される腫瘍の性質が変化するか調べる。それにより、大腸癌の発生と進行において、胎児化誘導分子が果たす役割を明らかにする。 以上の研究により、腸上皮細胞の胎児化を誘導する分子機構を明らかにし、それが大腸癌の発生や進行にどのように関わるか解明することを目指す。
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Causes of Carryover |
今年度の研究では、合成ハイドロゲル上で培養した腸細胞の解析が期待どおり進み、胎児化に関わる因子の一つとしてYAPを同定するなど、一定の成果を挙げることが出来た。一方で、胎児化に関わる候補因子はまだ多数残されており、これらの解析に進むまでには至らなかったため、その分の経費に残額が生じた。これらの候補因子の解析は、次年度以降に引き続き行う予定であり、その際に残額分を使用することとした。
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Research Products
(2 results)