2022 Fiscal Year Research-status Report
新しく同定したα-シヌクレイン翻訳後修飾によるパーキンソン病発症メカニズムの解明
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22K06887
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
松本 早紀子 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 講師 (00789654)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | チロシンヒドロキシラーゼ / DOPA化 / オリゴマー |
Outline of Annual Research Achievements |
パーキンソン病は中脳黒質などのドーパミン作動性ニューロンに神経変性を起こす疾患で、α-synuclein (αSyn)が凝集塊を形成することが原因とされている。しかしながら、脳全体のニューロンに発現するαSynがなぜドーパミン作動性神経により強い毒性を示すのかこれまで謎に包まれてきた。最近、我々は中脳黒質に特異的に発現するドーパミン合成酵素チロシンヒドロキシラーゼ(TH)が、αSynの136番目チロシンをDOPAに変換することを報告した。このDOPA化αSynは、αSynを過剰発現した培養細胞やマウス中脳黒質ニューロンで検出され、毒性の高いオリゴマーの形成を促進することが明らかになった。そこで本研究は、DOPA化αSynがパーキンソン病におけるドーパミン作動性ニューロン選択的な神経変性を誘発する原因であるかどうかを明らかにすることを目的とした。 当該年度では、(1)DOPA化αSynの細胞内局在制御と(2)マウス脳における毒性の解析および(3)パーキンソン患者脳のDOPA化αSynの検出試験を進めた。(1)では、DOPA化を受けないαSynとしてチロシン136をアラニンに置換した変異体(Y136A)を用い、マウス交感神経初代培養における軸索輸送を解析した。その結果、DOPA化を受けたαSynは順行性・逆行性輸送ともに速度が低下し、局在制御を正しく受けず細胞内への蓄積効果が高いことが示唆された。次に、(2)ではin vitroで形成したDOPA化αSynオリゴマーをマウスに投与するため、中脳黒質への注入方法確立とサンプル濃度の条件検討を行ない、投与を開始した。さらに(3)では、パーキンソン病検体のDOPA化αSyn免疫染色を京都大学との共同研究で行ったところ、中脳黒質ニューロンの軸索終末に集積し、疾患群で有意に増加していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は当初の研究計画である、DOPA化αSynの細胞内輸送とin vivo毒性の解析、パーキンソン病検体での検出試験を進めた。マウスにおけるDOPA化αSynオリゴマー投与の毒性評価は長期にかかる経時的な表現型の解析が必要とされるため、初年度から積極的に条件検討などを行って、本実験に取り掛かかることができた。DOPA化αSynの細胞内局在については、軸索輸送のライブイメージングによって、局在制御に異常があることを明らかにしたが、DOPA化αSynのより高解像度な局在イメージングについては現在まだ実現できていない。特に、パーキンソン病検体ではドーパミン作動性神経の軸索終末にDOPA化αSynが強く集積していたことから、DOPA化αSynがシナプスに局在して、何らかの機能を障害している可能性があり、分解能の高い局在イメージングが求められる。以前より我々が作成したDOPA化αSynの抗体は酸素原子一つの付加を認識しなければならないという特性上、特異性が高いものの親和性が低い。また、DOPA残基の側鎖にあたるカテコール環は極めて不安定であり、実験過程の中で酸化されやすく壊れやすいことがわかってきた。これらの課題を解決するために、DOPA残基のカテコールを効率よく修飾する方法を検討し、その条件を確立した。サンプル中のDOPA化αSynをあらかじめ化学修飾しておき、これに対する抗体を用いれば、高感度にDOPA化αSynを検出できると想定される。そのために、現在すでにこの抗体の作成に取り掛かっており、これを用いて次年度からの研究計画をより効率よく進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、第一に現在準備しているDOPA化αSynを中脳黒質に投与したマウスの表現型の解析を順次進める。当初の計画通り、1.細胞内への侵入、2.内在性αSynの凝集とその局在、3.神経変性 について、野生型αSynフィブリルと比較して形態学的に解析する。神経変性の指標として、細胞死・レビー小体マーカー等で明らかな差が見られない場合は、酸化ストレスやミトコンドリア機能障害等について、免疫組織化学により評価を行う。組織学的解析でDOPA化αSynの毒性が明らかになれば、当初の計画である行動実験の準備を進めていく。パーキンソン病様の運動障害がDOPA化αSynオリゴマー投与によってどの程度進行するかを野生型αSynフィブリル投与マウスと比較しながら明らかにしていく。第二に、現在作成を進めているDOPA特異的な化学修飾に対する抗体を用いて、DOPA化αSynの細胞内局在を詳細に調べる。マウス上経神経節より調整した交感神経初代培養を用いて、特にシナプス構造におけるDOPA化αSynの局在を超解像顕微鏡を用いて明らかにする。さらに、シナプス関連タンパク質との相互作用を調べるために、上述の細胞をサンプリングし、新しく作成した抗体を用いて免疫沈降を行い、DOPA化αSynが相互作用するターゲットの探索を行っていく。以上の実験により、DOPA化αSynによるドーパミン作動性ニューロン変性メカニズムの解明を目指す。
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Causes of Carryover |
本研究計画を進めるにあたり、より高感度にDOPA化αSynを検出できる抗体とシステムの構築が必要になった。そこで、当該年度にこの抗体の作成に取り掛かったため、本来使用する計画であった消耗品費の一部を繰越した。次年度では、動物実験、組織学実験、細胞培養実験を行う予定であるので、そのための試薬・抗体・実験動物の購入に使用する計画である。
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[Presentation] チロシンヒドロキシラーゼによるαシヌクレインの翻訳後修飾の同定とパーキンソン病発症メカニズムの解明2022
Author(s)
松本早紀子, 金明月, 綾木孝, 山門穂高, 田口智之, 十川夏子, 今野歩, 平井宏和, 高橋良輔, 高尾敏文, 広常真治
Organizer
第95回日本生化学大会
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[Presentation] ドーパミン作動性ニューロンに発現するチロシンヒドロキシラーゼは、αシヌクレインを翻訳後修飾してオリゴマーの形成を促進する2022
Author(s)
松本早紀子, 金明月, 綾木孝, 山門穂高, 田口智之, 十川夏子, 今野歩, 平井宏和, 高橋良輔, 高尾敏文, 広常真治
Organizer
第45回日本分子生物学会年会