2023 Fiscal Year Research-status Report
MHCクラスI抗原提示の機能不全が惹起する脳内セロトニン過剰疾患「不安障害」
Project/Area Number |
22K06914
|
Research Institution | Teikyo Heisei University |
Principal Investigator |
後藤 芳邦 帝京平成大学, 薬学部, 准教授 (90455345)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | アミノペプチダーゼ / 不安障害 / MHCクラスI抗原提示 / セロトニン |
Outline of Annual Research Achievements |
ERAP1遺伝子欠損マウスの脳内ではセロトニン濃度が通常の2倍程度高い値を示す。ERAP1はMHCクラスI抗原提示に関与する酵素であることがよく知られていることから、MHCクラスI分子の発現と脳内セロトニン量の相関について明らかにするため、マウス神経芽腫株Neuro2aを用いてMHCクラスI のH-2D分子欠損株をCRSPR-CAS9システムにより作製することで本遺伝子のセロトニン合成遺伝子の発現に及ぼす影響を解析した。その結果、同遺伝子欠損は、セロトニン合成遺伝子TPH2やAADCの発現量を増加させた。このことは、神経細胞におけるMHCクラスI抗原提示が脳内セロトニン濃度の調節に寄与していることを示唆する。 また、脳内セロトニンとERAP1遺伝子欠損マウスの異常行動との相関を明らかにするために、抑制性のDREADDをERAP1遺伝子欠損(C57BL/6マウス)の背側縫線核にて発現させ、DREADDリガンドを用いて同神経核に存在する神経(セロトニン神経)の活動電位を低下させた。その結果、縫線核のセロトニン合成酵素発現量およびセロトニン量が顕著に認められた。このマウスの不安行動を尾懸垂試験にて解析したところ、ERAP1遺伝子欠損によって認められた無動時間の低下は、野生型マウスと同程度まで回復した。以上の結果は、ERAP1遺伝子欠損に伴う脳内セロトニン濃度の増加が不安行動を惹起していることを示唆する。 これら結果を考え合わせると、ERAP1遺伝子欠損はMHCクラスI分子によって提示される抗原ペプチドレパートリーに影響を及ぼすことでセロトニンの合成を促進し、異常行動を惹起する可能性が示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MHCクラスI抗原提示過程が脳内セロトニン合成に影響を及ぼすことが明らかになった。今後、MHCクラスI分子の別のサブクラスのセロトニン合成への影響や抗原提示がどのような分子機構でセロトニン合成を促進するのかについて検討する。
|
Strategy for Future Research Activity |
MHCクラスI分子(H-2K)の遺伝子欠損細胞株を作製し、セロトニン合成酵素発現への影響を解析する。加えて、本年度作製したH-2D株とともに、MHCクラスI分子のセロトニン合成酵素の転写因子発現量への影響を解析するために利用する。MHCクラスI分子の受容体として機能しうる神経細胞上の分子としてCD3やPir、KIRLが挙げられている。現在、これらの遺伝子欠損株を作製中であり、セロトニン代謝に関わるセロトニン神経のMHCクラスI分子受容体を同定する。これらの実験で、抗原提示過程がセロトニンの代謝・輸送に関与する分子機構を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
MHCクラスI遺伝子上の遺伝子多型が多く、同遺伝子欠損株の作製に時間がかかった。そのため、その後の遺伝子発現解析が年度をまたいで行われた結果、繰り越しが生じた。繰り越し分は、4月の段階でセロトニン合成酵素の解析や電気泳動、細胞培養等に必要なすでに消費されている。
|