2022 Fiscal Year Research-status Report
乳腺浸潤性小葉癌におけるN末端欠如型E-cadherinの発現解析
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22K06973
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Research Institution | Shizuoka Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
杉野 隆 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (90171165)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 乳腺浸潤性小葉癌 / E-cadherin / CDH1 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳腺浸潤性小葉癌 (ILC)に発現する新たな異常E-cadherin「N末端欠如型E-cadherin (N-/C+ E-cad)」の臨床病理学的解析と異常タンパクの産生メカニズムの実験的検討を行った。 299例のILCを用いた免疫組織学的検討では、N-/C+ E-cadはILCの24 %に発現し、特に浸潤性乳管癌との混合型、triple negativeの症例に有意に頻度が高かったが、T因子、N因子との相関は見られなかった。 次に、N-/C+ E-cadタンパク質の産生メカニズムを解明するために、静岡がんセンターで行っている癌のmultiomics解析 (Project HOPE)のデータを利用し、E-cadherinをコードする遺伝子CDH1の変異を検索した。ILC 34症例中N-/C+ E-cadタンパク質を発現する8症例ではCDH1の変異は1例 (13 %) のみであった。この1例はCDH1の開始コドンにmissense mutationを伴っていた。一方、E-cadherinタンパク質の全長を欠損する24症例ではCDH1の変異頻度は48 %、全てtruncating mutationであった。これらのことから、N-/C+ E-cadタンパク質の産生にはCDH1のtruncating mutationは関与せず、スプライシング異常やAlternative translation start sites、翻訳後修飾などのメカニズムが関わることが想定された。 CDH1の開始コドンの変異については、この部位に変異を導入したCDH1の発現vectorをE-cadherinを乳癌細胞に遺伝子導入し、免疫組織化学的にN-/C+ E-cadの細胞膜発現を確認した。現在、Western blottingによるE-cadherinの欠損部位の同定を行っている。 翻訳後修飾によるE-cadherinタンパクの切断については、候補となるタンパク分解酵素をILC症例のmRNA発現データを用いて絞り込む予定である。また、N-/C+ E-cadを発現する乳癌細胞のモデルを探索している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ILCにおけるN-/C+ E-cadの発現についての臨床病理学的解析は、研究費申請前から継続して行っており、Am. J. Surg. Pathol.に掲載された。N-/C+ E-cadの発現を免疫染色で調べることは、日常の病理診断に有用であり、症例を蓄積している。 N-/C+ E-cadの産生メカニズムの解明は2つのアプローチにより行っている。1つはCDH1の開始コドンに見られたATG→GTGの変異がN-/C+ E-cadタンパクを産生することを確認するために、E-cadherinを発現しないヒト乳癌細胞株: MDA-MB-231, MDA-MB-435に変異型CDH1を遺伝子導入し、この異常タンパク質を発現することを免疫組織化学的に実証した。今後、Western blottingにより、タンパク質の欠損部位を同定する予定である。 もう1つのアプローチは、変異によらないN-/C+ E-cadタンパク質の産生メカニズムを解明することにあり、この異常タンパク質を発現するヒトILC細胞株を収集している。また、メカニズムの1つとして想定される翻訳後修飾(タンパク質プロセッシング)に関わる可能性があるタンパク分解酵素を同定するために、Project HOPEのデータを用いてN-/C+ E-cadのILC症例に特異的高発現する酵素を検索している。 以上、当初計画していた臨床病理学的解析はほぼ完了し、メカニズム解明の実験的な基盤が整ってきていることから、研究は順調に進行していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題は次の2つである。 1.N-/C+ E-cad発現とILCの予後との相関:臨床病理学的にN-/C+ E-cadを発現するILCはtriple negative症例が多かったことから、患者の予後に影響があると推定される。今までの解析では、T, N因子との相関はなかったが、生存率との関連は解析していないため、生存期間 (OS, PFS) のデータを収集し、解析する。 2.N-/C+ E-cadタンパク質の発現メカニズムの解明 1) CDH1の開始コドンのmissense mutationは、その頻度から主たるメカニズムではないと想定されるが、メカニズムの1つになり得る。また、このタイプの変異についての分子生物学的なデータがほとんどないことから、E-cadherin研究への貢献が期待される。 2) タンパク分解酵素によるE-cadherinの翻訳後修飾は、この異常タンパク質産生の主たるメカニズムと想定される。候補となる酵素としてMMPs, ADAMsが挙げられる。N-/C+ E-cadを産生するILCのmRNA発現データを解析し、分子を絞り込み、実験的に証明する。 3) 多数のヒトILC細胞株を収集し、N-/C+ E-cadタンパク質を発現する細胞を見いだし、モデルとする。
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Causes of Carryover |
当初の計画ではILC症例の病理標本を用いて、ゲノムDNAを抽出し、CDH1を含む遺伝子変異を網羅的に解析する予定であったが、Project HOPEのデータ解析により、変異の頻度が低いことや新しい変異パターンが見いだされた。このため、新たな変異パターンの解析を優先したため、遺伝子の網羅的解析に使用する研究費が見送りとなった。この研究費は主に新たな変異の解析や翻訳後修飾の解析に使用する予定である。
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