2023 Fiscal Year Research-status Report
新規レポーターマウスを用いたストレスによる免疫修飾機構の解明
Project/Area Number |
22K07009
|
Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
有村 裕 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 教授 (10281677)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 心理的ストレス / 免疫応答 / レポーターマウス |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度はストレス誘導性遺伝子のうち、新たにTsc22d3(別名Gilz)遺伝子を利用した緑色蛍光タンパク質(GFP)のKnock-In(KI)マウスを用意できたので、このマウスを用いて実験を行った。Tsc22d3がコードするタンパク質はグルココルチコイド(GC)誘発性ロイシンジッパーの転写因子であり、抗炎症作用などを持つことが報告されている。このマウスはTsc22d3遺伝子の末端にGFPが挿入されたおり、この脾臓細胞を用いて合成GCであるデキサメタゾン(Dex)によるGFP発現誘導をフローサイトメーター(FACS)で解析し、in vitroにおけるTsc22d3の経時的発現を検討した。脾臓細胞に対してDexは10、1000 ng/ml、抗CD3抗体は1 μg/mlの条件で添加し、48時間まで培養した。細胞を表面マーカーのThy1.2、CD4、CD8を染色し、FACS解析により各細胞のGFP蛍光強度の変化を比較した。KIマウスではDex無刺激でも脾臓細胞のGFPが陽性であった。脾臓細胞全体のGFP蛍光強度は刺激前と比較してDex刺激後に高い値を示したことから、in vitroでTsc22d3遺伝子の発現量が増加していることが確認できた。またDex濃度10、1000 ng/mlの比較では、GFP蛍光強度に差は見られず、Dex濃度の違いによるTsc22d3発現への影響は小さいと推察された。Dexと抗CD3抗体刺激での脾臓細胞におけるGFP発現は経時的な増加が見られ、特に培養8時間で大きく増加した。T細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞におけるGFP蛍光強度は脾臓細胞全体と同様に増加する傾向が見られた。このことから、Dexによる細胞への影響は、培養6時間以下では乏しく、それ以降にストレス応答性遺伝子であるTsc22d3の発現が増加したことが推察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記に加え、心理的ストレスによる影響を調べるために、不安様行動やうつ様行動などを誘導する社会的敗北ストレス(SDS)のモデル実験も実施した。本実験では先行研究より示されたストレス応答性遺伝子の中からGilz、Rtp801、Mkp1、Bnip3、Trp53inp1についてSDS負荷時間を昨年度より延長し、ストレス感受性が異なるBALB/cおよびC57BL/6マウスを用いて系統ごとに各遺伝子の発現変動を解析した。 実験では雄性C57BL/6またはBALB/cマウスと身体の大きい雄性ICRマウスを仕切り付きケージに入れ、1日10分間だけ仕切りを外しICRマウスと直接対面させSDS負荷を与えることを10日間繰り返した。その結果を拘束ストレス負荷マウスと比較した。脾臓細胞のRNAに対して上記5種類の遺伝子発現をqPCRで系統ごとに比較検討を行った。また血清コルチコステロン含有量も測定した。 SDS負荷マウスでは、未処理マウスと比較し、BALB/c系統ではGilz遺伝子、C57BL/6系統ではRtp801遺伝子の発現がそれぞれ有意に高く、Trp53inp1は低いことが確認された。先行研究の5分間負荷ではTrp53inp1のみ有意な減少したが、今回10分間負荷したことにより、Gilz、Rtp801遺伝子にも影響を与えたことから、時間延長により確かにSDS負荷が増加したことが示唆された。またC57BL/6では拘束ストレスにより、SDSよりも多くの遺伝子で発現が高かったが、Bnip3のみ低かった。また、SDSマウスにおける血中コルチコステロン濃度はBALB/cのみ有意に高い結果となり、限定的であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに1)FACS解析では、Ddit4遺伝子、Tsc22d3遺伝子にGFPをそれぞれ連結させたKIマウスを用いて実験を実施した。Ddit4マウスではin vivoストレス負荷直後、B細胞でGFP発現が増加傾向を示し、3時間放置すると白血球全体で減少傾向となり、24時間放置後は多くの細胞でGFPが増加した。2回のストレス後では主にB細胞でGFPが増加した。これらの結果からGFP変動は細胞の種類によって異なることとストレス終了後24時間で安定して増加することが示唆された(R4)。Tsc22d3マウスはin vitroのDex刺激後にGFP発現が高くなったが、Dex濃度10、1000 ng/mlの比較ではGFPに差は見られず、Dexと抗CD3抗体の共刺激では経時的な増加が見られ、特に8時間後に大きく増加した。またヘルパーT細胞、キラーT細胞もそれぞれGFP発現は増加した(R5)。次年度も引き続き、詳細にストレス条件と各細胞のGFP発現を解析したい。2)GFP発現とTsc22d3のタンパク発現に時間差があるかをウエスタンブロットで測定するとストレス直後にTsc22d3タンパクのみ増加し時差があった。3)脾臓の凍結切片を用いてGFP発現細胞を検出することを試みたが、固定2時間でGFP、T細胞共に染色可能と考えられたが、強度は弱かったので、さらに条件を検討する必要がある。4)社会的敗北ストレスマウスでは10分間の負荷でBALB/c系統ではTsc22d3、C57BL/6系統ではDdit4の発現が高く、Trp53inp1は低くなり、前年度よりも条件が改善された(R5)。今後はストレス伝達経路の遺伝子改変マウス、アレルギー性皮膚炎やDNP抗原を用いたアナフィラキシー反応などの病態モデルを組み合わせてTh2細胞やTreg細胞も見つつストレスが免疫疾患に影響を与える仕組みを解析したい。
|
Causes of Carryover |
上記のように、令和5年度は新たに作出したTsc22d3マウスを用いて実験を行った。(1)脾臓細胞を用いてin vitroでGFP発現を調べたFACS解析では、各細胞で時間やGFP増減が微妙に異なり、再現性を得るのに苦心した。そのため、条件検索を繰り返したことから、当初計画よりも費用がかからずに済んだ。またウエスタンブロットや凍結切片は前年度に購入した試薬を多く使用したため、出費が少なく抑えられた。また(2)社会的弱者ストレスの実験においてもqPCR試薬は購入したが、使用したプライマーは前年度と共通であったため、こちらも出費が少なく抑えられた。これらの出費の軽減により、新たな解析やキットに使用できる予算に余裕があるので、次年度に有効利用したい。
|