2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on the conversion mechanism from VBNC to culturable in pathogenic bacteria
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22K07064
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
濱端 崇 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 細菌感染研究室長 (40311427)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
妹尾 充敏 国立感染症研究所, 細菌第二部, 室長 (20646624)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | VBNC / コレラ菌 / ウルセランス菌 / 培養可能 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌には低栄養・低温などのストレス環境下では「生きているが培養できない(VBNC)」状態となって長期生残するものが知られている。しかしVBNC状態がいかなるメカニズムで培養可能状態に転換するのかは全く不明である。本研究ではグラム陰性のコレラ菌とグラム陽性のウルセランス菌を用い、VBNC状態から培養可能状態への転換(以下VC転換と呼ぶ)に関与する遺伝子を探索・解析し、この転換機構の解明を目的とする。 コレラ菌ではすでにVBNC菌にカタラーゼを添加してVC転換を誘導し、継時的に菌のRNAをサンプリングし、アレイ解析により8時間後までの遺伝子発現データを得ていた。これをGene Ontology解析したところ、2-4時間ではストレス関連遺伝子が、6時間以降はリボゾーム遺伝子の発現が上昇していた。この結果からVC転換が始まるのはカタラーゼ添加後2-4時間であると推定し、ここで発現上昇するオペロンpspABCおよびrpoE-rseAに着目した。これらは2成分制御系遺伝子で、菌体外の変化を菌体内に伝えることからVC転換に関与する可能性が高い。現在、これらの単独および二重欠損株を作製し、VBNC化およびVC転換における野生株との差異を解析している。 VC転換におけるQuorum sensing(QS)の関与を調べるため、QSのマスター制御因子HapR欠損のO395株にプラスミドでhapRを補完した株を作製した。しかしこの株のVBNC化およびVC転換では野生株との差は見られなかった。またQSの阻害剤であるシンナムアルデヒドは、コレラ菌のVC転換を阻害しなかった。 ウルセランス菌の培養条件を検討し、BHI寒天培地で30C、3日間培養を標準とした。4Cで約2.5ヶ月保存し、8割の菌がCTC染色(呼吸)陽性で生きているが培地で増殖しないVBNC状態になった。またカタラーゼによるVC転換も可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コレラ菌においては、まずVC転換時の継時的遺伝子発現のGene Ontology解析結果を論文発表した(Gene 863:147289, 2023)。また欠損株の作製は、pspABCオペロンおよびrpoE-rseA全体の欠損を試みたが、欠損領域が長すぎたせいか欠損株が得られず、各最上流ORFであるpspAおよびrpoEを欠損させればオペロン全体をノックアウトできると想定し、pspAおよびrpoEのみの欠損株を作製した。pspA単独、rpoE単独およびこれらの二重欠損株のVBNC化およびVC転換を解析した結果、野生株との差は見られなかった。しかしその後、pspA欠損株のpspBCの発現をRT-qPCRで解析したところ、野生株の8割程度の発現が見られることから、PspBC(膜に発現するPhage shock proteinの構造ユニット)は欠損していないことがわかった。直ちに新たにpspBCの欠損株を作製し、現在はrpoEとの二重欠損株を作製中である。 またコレラ菌におけるQSとVBNCの関連については、HapRの存否、またQSの阻害剤もVC転換には影響しなかった。コレラ菌のVBNC化にはQS系が関与しているという報告はあるが、VC転換への関与は低い可能性が考えられる。またVC転換のスイッチやシグナル経路が複数存在している可能性もある。 ウルセランス菌については培養条件の決定に多少時間を要した。血液寒天培地では37Cで増殖したが、BHI寒天培地では増殖しなかった。BHI寒天培地では30C培養が最適で、3日間の培養で十分なコロニー増殖が観察された。また4Cで約2.5ヶ月の保管により、CTC染色される生きている菌が、BHI寒天培地では培養できなくなること(VBNC化)、さらにその状態にカタラーゼを作用させると培養可能に転換することもわかった。全体的に進捗状況は計画通りと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
コレラ菌においては、まず念のためrpoE欠損株のrseAの発現を調べ、構造タンパクrseAの発現がきちんと消失していることを確認する。rpoEはpspAとは異なり転写抑制因子ではないのでその可能性は低いと考えるが、万一消失していなければrpoE-rseAあるいはrseAの欠損株を作製する。次に現在解析を進めている二つのオペロンpspABCおよびrpoE-rseAが本当にVC転換のスイッチ遺伝子なのか否かの確認を進める。具体的には、pspBCおよびrpoEの単独欠損株および二重欠損株のVBNC化ならびにVC転換の挙動の野生株との差異を、細菌学的およびRT-qPCRやRNAseq等の分子生物学的手法を用いて詳細に検討する。特にrpoEについてはストレス反応特異的な転写因子として多くの遺伝子の発現調節に関わっている可能性が高いことから、VC転換時のその上流のシグナルおよび下流の遺伝子について、すでに報告されている文献情報も踏まえながら解析する。 QSとVBNCとの関連については、O395コレラ菌におけるHapRの有無にの影響について細菌学的にさらに検討するとともに、VC転換時のhapR以外のQS関連遺伝子、さらに最近QSの制御に関与していると言われているいくつかのsmall RNAの挙動について解析し、QSのシグナル経路との関連の有無を明らかにする。 ウルセランス菌についてはコレラ菌で行なったのと同様に、VBNC化した菌にカタラーゼを作用させ、継時的にBHI寒天培地にプレーティングしコロニーカウントによりVC転換のプロファイルを観察する。同時に継時的に菌をサンプリングし、遺伝子発現の変化をRNAseq等により解析する。またジフテリア毒素遺伝子の存否によるVBNC化およびVC転換の挙動、またVC転換に伴うジフテリア遺伝子の発現の変化を、ジフテリア菌のデータと比較し解析する。
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Causes of Carryover |
物品費はおおよそ計画通りの使用であったが、できるだけ無駄を省き節約を心がけた結果、未使用額が生じた。これは翌年度分の使用額に組み入れ、今後多くなることが予想されるRNAseq等の高額な解析に有効に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)