2023 Fiscal Year Research-status Report
ピロリ菌感染胃癌の背景にあるBRCA1核移行制御機構の破綻
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22K07068
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
紙谷 尚子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (40279352)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ピロリ菌 / CagA / PAR1b / BRCA1 |
Outline of Annual Research Achievements |
ピロリ菌はcagA遺伝子を保有する菌株と保有しない菌株に大別されるが、日本人の胃から採取されるピロリ菌は、ほぼ100%cagA陽性株である。cagA陽性ピロリ菌は、菌体内で産生したCagA蛋白質をヒト胃上皮細胞内に注入する。胃上皮細胞内に侵入したCagAは、上皮細胞極性の形成・維持に必須の役割を担うPAR1bに結合し、そのキナーゼ活性を抑制することで上皮細胞極性を破壊する。同時に、CagAはPAR1bを抑制することによりBRCA1の核移行を阻害し、ゲノム不安定性を誘導する。先行研究において、PAR1b以外のキナーゼによるBRCA1のリン酸化もまたBRCA1の核移行に必要であることを見出した。そこで本研究では、ヒトのキナーゼを標的としたsgRNAライブラリを利用し、BRCA1をリン酸化する責任キナーゼを同定し、CagAがキナーゼ活性に与える効果を解析する。 本研究では、BRCA1の核移行を評価する実験系を構築した。相同組換え修復レポーター(HR-GFP)は、制限酵素I-SceIにより生じたDNA二本鎖切断(DSB)が相同組換えによって修復された場合にのみGFPを発現するレポーターベクターである。核内BRCA1は相同組換えに必須であることから、BRCA1が核移行した細胞はGFP陽性となる。そこで、ヒト胃上皮細胞由来のAGS細胞を用いて、HR-GFPを安定発現するとともにTet-onシステムでI-SceI-RFPを誘導発現する安定発現細胞株を作製した。この安定発現細胞にsgRNAライブラリを導入し、ドキシサイクリンの添加によりDSBを誘導した。DSBが相同組換えによって修復されるとGFP陽性となるが、BRCA1の核移行が阻害された細胞ではGFP陰性となる。細胞からゲノムを抽出し、次世代シーケンサーによりGFP陰性細胞に特異的なsgRNA配列を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
sgRNAライブラリのスクリーニングでは、GFP陰性細胞に特異的なsgRNA配列を解析し、BRCA1をリン酸化する候補キナーゼの同定を目指している。スクリーニング結果から、複数のキナーゼが候補として挙がった。そこで、候補キナーゼについて特異的siRNAを用いたノックダウン実験を行い、免疫染色によりBRCA1の細胞内局在を解析している。また、候補キナーゼの特異的阻害剤を入手可能な場合には、阻害剤についても検討している。しかしながら現時点では、BRCA1をリン酸化する新規キナーゼの同定には至っていないため、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、候補キナーゼの特異的siRNAならびに特異的阻害剤を使用した検証実験を行い、BRCA1をリン酸化するキナーゼを同定する。キナーゼXを同定した後は、AGS細胞以外のヒト胃上皮細胞(MKN28細胞、GES-1細胞、KatoIII細胞など)においても、キナーゼXがBRCA1の核移行を制御することを検討する。また、PAR1bとキナーゼXがBRCA1の核移行において、協調的に機能する可能性を研究する。さらに、cagA陽性ピロリ菌感染がキナーゼXに与える影響を解析する。
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Causes of Carryover |
当初の計画よりも研究の進行がやや遅れているため、今年度に実施予定であった研究計画を次年度に延期せざるを得なくなった。それに伴い、今年度に購入予定であった試薬類と消耗品を次年度に購入することに変更したことにより、次年度使用額が生じた。次年度は、今年度の研究の遅延を速やかに解消し、当初の計画通りに研究を遂行する。
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