2022 Fiscal Year Research-status Report
新型コロナウイルスのnsp1依存性細胞傷害機構の解明とレプリコンモデルへの応用
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22K07098
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
田中 智久 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (30585310)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | SARS-CoV-2 / レプリコン / ゲノム複製 / 病原性発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)治療薬としてモルヌピラビルやニルマトレルビルなどが使用されているが、薬剤耐性株の出現リスクに備えて、SARS-CoV-2増殖メカニズムに基づいた新たな抗ウイルス薬開発の継続が必要と考えられる。これまで、研究代表者らは、BSL2レベルでの大規模なウイルス複製阻害薬の探索に適した細胞モデルとして、SARS-CoV-2レプリコン発現系を開発した。しかしながら、同レプリコンは細胞傷害性が強いため、限られた細胞株でしかレプリコン安定発現細胞の樹立が出来ないという問題があった。そこで本研究課題では、SARS-CoV-2複製による細胞傷害メカニズムを解明し、非細胞傷害性レプリコン発現モデルの開発と、それを用いたウイルス複製の解析系およびスクリーニング系を確立することを目的とした。これまでの知見から、SARS-CoV-2の非構造タンパク質nsp1はリボソームの働きを阻害することにより宿主遺伝子の翻訳を阻害することが分かっている。そのため本研究課題では、ウイルス複製による細胞傷害の主因としてnsp1による翻訳阻害が関係すると考え、nsp1による細胞傷害のメカニズムの解析を行っている。また、nsp1遺伝子に変異を導入することにより、翻訳阻害を引き起こさない変異型nsp1を発現するレプリコン発現ベクターを作製し、その細胞傷害性やレプリコン複製活性への影響の解析を進めている。これらの解析を進展させ、薬剤耐性株のウイルス複製評価などが可能な新たなSARS-CoV-2複製解析モデルを確立したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SARS-CoV-2複製下での細胞傷害においてnsp1の役割を解析するため、野生型nsp1と、C-terminal domainの2か所をアラニンに置換した変異型nsp1の発現ベクターを作製した。細胞内レポーター遺伝子の発現レベルを比較したところ、野生型nsp1は翻訳阻害活性を示したのに対し、変異型nsp1は翻訳阻害を引き起こさなかった。これらnsp1を過剰発現させたVeroE6、Huh7、293T細胞の細胞増殖速度を調べた結果、野生型nsp1は細胞増殖を阻害した一方、変異型nsp1は細胞増殖に影響しなかった。このことから、nsp1による細胞傷害はその翻訳阻害活性に起因することが示唆された。このメカニズムを調べるため、nsp1が細胞死を誘導するか検討したところ、野生型nsp1発現下で細胞死が増加する傾向があった。現在、nsp1が細胞周期に与える影響を解析している。また、野生型SARS-CoV-2レプリコン発現ベクターのnsp1遺伝子に変異を導入し、nsp1変異型レプリコン発現ベクターを作製した。これらレプリコンベクターを細胞に一過性発現させたところ、nsp1の変異の有無はレプリコン複製効率に影響しないことが示唆された。しかしながら、変異型レプリコンを発現させたVeroE6細胞では、野生型レプリコンと比べ、レプリコン安定発現細胞の樹立効率が高い傾向が見られた。このことは、nsp1による細胞増殖の阻害がレプリコン細胞樹立の妨げとなっていることを示していると考えられた。上記の進捗状況より、本計画はおおむね計画通りに進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの解析結果より、nsp1による細胞増殖阻害のメカニズムとして、細胞死の誘導が考えられた。そこで今後の方策として、野生型および変異型nsp1による細胞死誘導について引き続き解析する。細胞死のメカニズムとしては、nsp1がアポトーシスやネクロトーシスなどを誘導している可能性が考えられるため、ウェスタンブロット、細胞染色によりこれら細胞死マーカーの発現レベルを調べる。また、細胞増殖阻害のメカニズムとして、nsp1は細胞周期を遅延させている可能性もあるため、フローサイトなどによりnsp1発現下での細胞周期を検討する。これら解析結果より、nsp1による細胞傷害や細胞増殖阻害のメカニズムを解明することを目指したい。また、上記データに基づき、変異型nsp1を発現するレプリコンにおいて細胞傷害が軽減されているかどうかを調べ、従来のレプリコンモデルでは困難だった培養細胞での安定発現系の構築を目指す計画である。また、コロナウイルス治療薬に対する野生型および変異型レプリコンの薬剤感受性をルシフェラーゼアッセイなどにより評価し、ウイルス複製評価モデルとしての変異型レプリコンの有用性を明らかにする。最終年度では、変異型レプリコンを安定発現する細胞株を用いたスクリーニング系を構築し、既存の化合物ライブラリーなどを用いてそのスクリーニング適性を評価したいと考えている。これら研究成果は、SARS-CoV-2の細胞傷害性や病原性の解明に役立つことが期待され、また、新たな複製阻害薬の探索にむけた基盤的知見となることが期待される。
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