2022 Fiscal Year Research-status Report
プロテオーム熱安定性評価法(TPP)によるがん細胞の酸化ストレス耐性機構の解明
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22K07144
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
小林 大樹 新潟大学, 医歯学系, 助教 (20448517)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 酸化ストレス / Thermal proteome profile / がん細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
がんは微小環境で過剰に産生した活性酸素種 (ROS)にさらされながらも、さまざまな戦略によって酸化ストレス耐性を獲得し、更なる悪性化へと進んでいく。この過程においてROSにより酸化修飾を受けた様々なタンパク質が機能を変化させ、その結果がん特有の酸化ストレス耐性機構が生み出されると考えられているが、その詳細なメカニズムは不明な点が多く存在する。そこでタンパク質の構造や存在状態を包括的に計測するための技術を用いて、ROSによって修飾されたタンパク質の存在状態を指標にがん細胞の酸化ストレス応答を解析するため、申請者らの研究室が所有する各種がん細胞の中からに酸化ストレス応答性を評価した。特にROSとその悪性度が密接に関与している前立腺がんの細胞株における内在性ROSレベルとプロテオーム発現状態をした結果、ROSレベルが高いDU145細胞株において、カタラーゼなどROSを除去する酵素群の発現が低下し、一方でチオール基を還元状態にするチオレドキシンシステムを構成する分子群の発現が亢進しており、タンパク質チオール基のレドックス恒常性の維持に寄与していることが示唆された。また、タンパク質存在状態を解析するためのThermal proteome profiling(TPP)法を実施するために、Peroxiredoxin-1抗体を用いたThermal Shift assayにより予備検討を行った。その結果、Peroxiredoxin-1の熱安定性が亢進する過酸化水素の処理条件を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
解析に用いるがん細胞の酸化ストレス応答性を検証し、特に前立腺がん細胞の酸化ストレス応答を詳細に解析することに成功した。また酸化ストレス条件下におけるがん細胞内で存在状態が変化するタンパク質を網羅的に同定するための、実験条件を確立した。一方、本年度は上記の検証を進めたことにとどまり、解析対象に選定したがん細胞内の酸化ストレス条件下で状態変化するタンパク質の包括的な解析には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の解析によって、がん細胞の酸化ストレス応答を詳細に解析する。 1. 酸化ストレス条件下で状態変化するがん細胞内タンパク質の包括的な解析:タンパク質の構造や存在状態を包括的に計測するための技術により、ROS誘導処理をしたがん細胞及び非処理細胞からタンパク質を抽出して、ROSによって存在状態が変化するタンパク質を同定する。 2.酸化ストレス耐性機構に重要と推定される分子群の抽出: TPPにより同定された分子群から、GO解析、分子ネットワーク解析などを通じて、酸化ストレス応答の主体となる重要シグナル分子群を抽出する。また、構造が変化した分子に相互作用する分子群のデータを抽出し、構造が変化している分子複合体を特定することで細胞内の状態変化を推定する。さらに、ROS高感受性、低感受性がん細胞株の間で比較を行うことでそれぞれで特異的に構造が変化した分子群を探索し、酸化ストレス耐性との関連などを検証する。 3.酸化ストレス耐性関連候補分子群の機能解析: 酸化ストレス耐性に重要であると推定されたタンパク質群修飾状態を同定するともにその機能について検証する。酸化ストレス条件下で培養したがん細胞内でタグを融合させた状態で目的タンパク質を発現させ、タグ抗体によって精製し、質量分析データからタンパク質の酸化修飾部位と種類を同定する。また、酸化修飾部位が特定された分子に対して、酸化ストレス条件下での複合体形成状態を質量分析によって解析し、タンパク質の機能を検証する。 4.酸化ストレス耐性関連候補分子群のがん細胞内における生物学的意義の検証: 構造および機能を詳細に解析した分子群に対する抗体を用いて、酸化ストレスに応答した発現量および細胞内局在を解析する。また、これら分子群の機能を抑制、あるいは活性化させたがん細胞の酸化ストレス状態やシグナル経路、およびがん悪性化に関与する表現型に対する効果を検証する。
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Causes of Carryover |
解析対象とするがん細胞の選定とそれらがん細胞の酸化ストレス応答の性状の評価において、当初の計画よりも時間を要したため、酸化ストレス応答条件下におけるがん細胞内のタンパク質の存在状態を包括的に解析する予定を、来年度に延期し、本年度に予定していた予算を来年度に使用する。
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