2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K07213
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Research Institution | Fukuoka Dental College |
Principal Investigator |
飯森 真人 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 准教授 (20546460)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞老化 / 抗がん剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞老化は安定的かつ不可逆的に細胞周期が停止した状態であるが,多様な抗がん剤に対しても細胞老化が誘導される。抗がん剤により誘導されるがんの細胞老化では,p53が不活性化すると細胞老化より脱却して細胞周期が再び開始され,がん幹細胞性の獲得やWntシグナル経路の活性化などがんの悪性度を増す可能性が報告された。さらに老化細胞は炎症性タンパク質の分泌を引きおこし、周辺組織に炎症や発がんを誘導する可能性があることが知られている。これらのことよりがん細胞の老化誘導が抗がん剤治療のゴールとなり得るかは議論の余地が残る。さらに,抗がん剤によるがん細胞の老化移行および維持がどのような分子メカニズムによるのか,老化維持が破綻したがん細胞はどのようにふるまうのかなど不明な点が多い。本研究では,すでに見出したヌクレオシドアナログ系抗がん剤トリフルリジン(FTD)が細胞老化を誘導する現象から,がん細胞老化の維持に必要な因子と分子メカニズムと老化維持が破綻したがん老化細胞のふるまいに関する課題を解明することで抗がん剤誘導性細胞老化の分子機構とその破綻による細胞運命を明らかにする。 令和5年度はFTDが細胞老化に移行するメカニズムとしてDNA複製ストレスによって引き起こされる老化移行にはG2期を遅延させることが必要であることが示された。また抗がん剤により老化移行してしまったがん細胞に対して殺細胞効果をあたえるSenolytic drug(老化細胞除去薬)の探索から,老化した細胞特異的にアポトーシスを誘導する候補化合物を見出した。さらに老化維持が破綻したがん老化細胞のふるまいを観察するために,タンパク質の特異的分解誘導系のオーキシンデグロン法を利用して,がん老化細胞の細胞周期停止維持に必須なp21を抑制することによる再増殖モデルを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では3つの課題(課題1 異なる様式で誘導される細胞周期停止と老化の関連性,課題2 がん細胞老化の維持に必要な因子と分子メカニズム,課題3 老化維持が破綻したがん老化細胞のふるまい)に取り組むことで抗がん剤誘導性細胞老化の分子機構とその破綻による細胞運命を明らかにすることを目的とした。 初年度は課題1への取り組みとして,FTDが誘導する細胞老化を老化誘導モデルとして用い,FTDが細胞老化に移行するメカニズムを明らかにする基礎研究を行うなかで,FTDによるDNA複製ストレスによって引き起こされる老化ではp53-p21経路の活性化を起こす局面において通常よりも長いS/G2期の時間が必要であることが示された。令和5年度はさらに詳細なメカニズムを明らかにするために,細胞周期のS期およびG2期それぞれの時期を可視化できるPIP-Fucci細胞を樹立してライブセルイメージングにより観察をした。その結果,FTD存在下で細胞老化に移行する際に見られる分裂期スキップを起こす細胞では,分裂期に進行する細胞と比較してG2期の大幅な遅延が認められた。この結果より,DNA複製ストレスによって引き起こされる老化移行にはG2期を遅延させることが必要であることが示された。一方,課題2に関連する検討として,抗がん剤により老化移行してしまったがん細胞に対して殺細胞効果をあたえるSenolytic drugの探索を行い,通常の増殖細胞には影響が少なく,老化した細胞特異的に効果を与える候補化合物を見出した。この化合物は老化細胞に特異的にアポトーシスを誘導することが観察された。また課題3として老化維持が破綻したがん老化細胞のふるまいを観察するために,タンパク質の特異的分解誘導系のオーキシンデグロン法を利用して,がん老化細胞の細胞周期停止維持に必須なp21を抑制することによる再増殖モデルを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1への取り組みとしてFTDが細胞老化に移行する際に遅延するG2期の分子メカニズムとその人為的な制御によって老化への移行が回避できるのかを検証する。さらに細胞老化を回避させることが,抗がん剤の細胞増殖抑制効果に対してどのような意義をもつか検証するために,老化回避細胞が示す分裂期の進行や分裂期後のG1期細胞の細胞運命に関する表現型の詳細な解析を行う。また,我々の過去の報告よりp53ノックアウト細胞ではFTDによりDNA複製ストレスをあたえても分裂期スキップによる細胞老化の移行を起こさず,分裂期に移行することが明らかとなっている。そこでゲノム編集による遺伝子変異のノックイン技術を用いて,p53ミスセンス変異細胞を樹立して,FTDによるG2期の遅延や細胞老化への移行を示すか検証を行う。課題2への取り組みとして,Senolytic drugとして見出した候補化合物がどのようにして老化細胞特異的なアポトーシスを誘導するのかのメカニズムを解析する。特に,FTDが細胞老化を誘導する時期にある種のサイトカインが強く産生されることをすでに見出しているので,そのサイトカインが関与するシグナル伝達経路が関連する可能性を考慮して検証を行う。課題3への取り組みとして,すでに構築したタンパク質特異的分解誘導系のオーキシンデグロン法を利用してp21を抑制することによるがん老化細胞再増殖モデル細胞をさらに細胞周期可視化細胞(Fucci細胞)として改変して,p21の抑制により再増殖した老化細胞をS/G2期のマーカー用いてソーティングして,再増殖の前後における,幹細胞マーカーCD34,Sca1,ABCG2,CD150および細胞増殖シグナルWnt関連因子のCcnd1,CD44,LD2およびFOSL1やWnt標的因子のMETやFZD3などの発現変動を解析して,老化からの再増殖によるがんの悪性化獲得を明らかにする。
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