2022 Fiscal Year Research-status Report
腫瘍免疫系における転写因子NRF3を介した肥満パラドックスの分子メカニズム解明
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22K07219
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
和久 剛 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (40613584)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 聡 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (50292214)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | NRF3 / がん / 肥満パラドックス |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満はがんや糖尿病、動脈硬化など様々な病気の発症・進行リスクを高める一方で、肥満患者の予後は良好となる傾向にあることが報告されてる。このような矛盾は「肥満パラドックス」として知られているが、実験的に再現するのが難しいため、その原因となる遺伝子や仕組みについては不明な点が多く残されたままであった。初年度となる2022年度には、転写因子NRF3の発現量と腫瘍増大リスクに肥満パラドックスが生じることを発見した。 申請者はこれまでに、転写因子NRF3が多くのがん患者の腫瘍組織で高発現していることを公共のヒトがんデータベースから発見し、NRF3が実際に腫瘍増大や転移促進を引き起こすことをがん細胞のマウス移植実験で検証してきた。今回の研究では、NRF3による腫瘍形成に肥満が及ぼす影響を調べるため、通常食を与えた正常マウスと高脂肪食を与えた肥満マウスを用いた。これまでの知見と同様に、正常マウスへがん細胞を移植すると、NRF3発現低下によって腫瘍サイズが減少した。その一方で大変興味深いに、肥満マウスへの移植ではNRF3発現低下によって逆に腫瘍サイズが増加することを見出した。この結果は、正常体型ではNRF3発減量が多いと腫瘍増大リスクが上昇するのに対し、肥満体型ではNRF3発現量が多いと腫瘍増大リスクが低下すること示している。この仕組みを解明するため、次に移植マウスから腫瘍組織を摘出して網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、脂肪細胞分化に関連する遺伝子群の発現が正常-肥満マウス間で逆転することを発見した。そこでがん細胞を肥満細胞と共培養したところ、NRF3発現低下によるがん細胞の増殖抑制は肥満細胞との共培養で消失することを明らかにした。以上の知見は、NRF3が「がんの肥満パラドックス」の責任因子であること、および肥満に伴って増加する脂肪細胞が重要な役割を担っていることを強く示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
NRF3が「がんの肥満パラドックス」における働きについての知見は、既にThe Tohoku Journal of Experimental Medicineに上梓している。加えて、NRF3は、がん細胞そのものの性状だけでなく、脂肪細胞などのがん細胞の周辺細胞にも影響を及ぼす可能性を見出した。また全く予想外のNRF3の新たな機能として、オートファジーを誘導してメラニン産生を促進することや、さらにはNRF3がマクロピノサイトーシス等を介して細胞外からのアミノ酸取り込みを制御していることも見出し、これらの知見をCell ReportsとiScienceにそれぞれ掲載することができた。以上の理由から、本研究は当初の予定以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
がん細胞は周辺環境は「腫瘍微小環境」と呼ばれ、脂肪細胞以外にも免疫細胞も含まれている。興味深いことに、がん細胞は腫瘍微小環境からアミノ酸などの栄養を取り込むことで、自身の増殖を促進するだけでなく、がん細胞を攻撃するために腫瘍に浸潤してきた免疫細胞の活性を抑制することが報告されている。そこで今後は、NRF3がアミノ酸代謝を介して腫瘍免疫に及ぼす影響を解明することに研究目的を前進させ、がん細胞を用いたin vitro解析や、がん細胞を同系マウスに移植するin vivoモデル、がん細胞と免疫細胞との共培養系を包括的に駆使して展開する予定である。
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