2022 Fiscal Year Research-status Report
がん免疫療法の治療抵抗性に関わる遺伝子変異による抗腫瘍免疫応答減弱機構の解明
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22K07248
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 佐知子 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (70447845)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | がん免疫応答 / 免疫チェックポイント阻害剤 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)治療抵抗性に関わるがんの遺伝子変異を探索し、がんの遺伝子変異により治療抵抗性となる機序の解明を目的とし解析を進めている。ICI治療抵抗性に関与する因子を探索するため、TCGAデータベース上のICI治療を行った悪性黒色腫患者腫瘍のRNA-seqデータから治療効果の有無でGene Set Enrichment Analysis(GSEA)を行った。GSEAから治療効果に関与する遺伝子群を同定し、同定した遺伝子群の発現差による生存率を比較した結果、特定の分子の低発現群で有意に予後不良であることが明らかとなった。これらの治療予後に関連する分子に着目し、CRISPR-Cas9システムにより当該分子の発現を欠損させたマウスがん細胞株を作製した。当該分子欠損株を用いたin vitroおよび担がんマウスモデルでの解析から、当該分子欠損株に対して抗腫瘍免疫応答が抑制される可能性が示唆された。さらに、当該分子欠損株担がんマウスに抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体を投与したところ、野生株担がんマウスでみられた抗腫瘍効果が認められず、ICIに対し抵抗性を示すことが明らかとなった。がん細胞の当該分子発現が抗腫瘍免疫応答に関与する機構を明らかにするため、当該分子欠損株及び野生株の担がんマウス腫瘍からCD8+T細胞及びCD45-細胞を単離し、RNA-seq解析を行なった。その結果、当該分子欠損株担がんマウスの腫瘍浸潤CD8+T細胞では活性化や増殖に関連する遺伝子群の発現が有意に低下し、また、がん細胞において代謝に関わる遺伝子群の発現が野生株に比べ亢進していることが明らかとなった。今後、がん細胞の当該分子発現低下による代謝変化に伴う抗腫瘍免疫応答の変化について解析を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の達成に向けて、ICI治療を行った悪性黒色腫患者の腫瘍のRNA-seqデータからICI治療抵抗性に関わる分子を同定した。当該分子の発現欠損マウスがん細胞株を作製し、in vitroおよびin vivoでの検討、および担がんマウス腫瘍のRNA-seq解析を実施した。その結果、当該分子欠損株担がんマウスでは腫瘍浸潤CD8+T細胞の活性化に関わる遺伝子発現が抑制されることが示され、がん細胞の当該分子発現欠損が抗腫瘍免疫応答の抑制に関わることを明らかにした。以上のことから、本年度はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
担がんマウス腫瘍のRNA-seq解析の結果、当該分子欠損株の担がんマウス腫瘍で、代謝に関わる遺伝子群の発現が亢進することが明らかとなったことから、当該分子発現の抑制によりがん細胞の代謝が変化するメカニズム、さらには、がん細胞の代謝変化に伴う腫瘍浸潤CD8+T細胞の分化・増殖・代謝といった動態変化を詳細に解析し、当該分子発現低下により抗腫瘍免疫応答が抑制される機序を明らかにする。また、CD8+T細胞の活性化を抑制する代謝環境に関連する経路を特定することにより、当該経路を調節する薬剤の探索を進め、マウスモデルでこれらの候補薬剤と免疫療法の併用により治療効果が向上するかの検討を行い、より効果的ながん免疫療法の開発につなげる。
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Causes of Carryover |
ICI治療抵抗性に関わる候補分子の探索において、TCGA上のデータベースを用いた解析、および候補分子をsgRNAにより発現欠損させたマウスがん細胞株を用いた解析が比較的順調に進み、ICI治療抵抗性に関わる分子を同定するための解析費用を抑えることが可能となった。また、担がんマウスモデルで実施したRNA-seq解析費用を当初の予定より抑えることが可能となったため、次年度使用が生じた。未使用額は、今年度のRNA-seq解析の結果より、がん細胞の当該分子発現が代謝に関与することが明らかとなったことから、がん細胞およびCD8+T細胞の詳細な代謝解析を行うための試薬が必要となるため、これらの試薬購入に使用する。
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