2022 Fiscal Year Research-status Report
αシヌクレイン凝集体の立体構造に基づく新規ワクチン療法の開発
Project/Area Number |
22K07362
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
野中 隆 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 副参事研究員 (30356258)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 神経変性疾患 / ワクチン / αシヌクレイン |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、クライオ電子顕微鏡による多系統萎縮症の患者脳に蓄積するαシヌクレイン(aS)凝集体の立体構造を基に新たな変異体を作製し、凝集体形成・シード効果およびワクチンとしての有用性を検討した。部位特異的変異導入法によりaS変異体(K43&45AあるいはK43&45R)を作製し解析を行った。野生型(WT)、K43&45A、K43&45Rモノマーを37度で振とうすると、いずれも経時的に凝集した。これらの凝集体を電子顕微鏡で観察したところ、いずれも線維状の構造が認められた。次にこれらの凝集体のシード活性について検討した。静置したWTモノマー溶液にそれぞれの凝集体を添加したところ、K43&45R凝集体では野生型凝集体よりも強いシード効果が見られたが、K43&45A凝集体ではシード活性が殆ど無いことが判明した。以上より、今回作製した2種類の変異型aSはいずれも37度で振盪すると凝集すること、およびK43&45A変異型凝集体にはシード活性が無いことが明らかとなった。凝集するがシード活性が無いaS変異体の報告はこれまでになく、興味深い結果である。我々はこのK43&45A変異型凝集体の性質に着目し、K43&45A凝集体のワクチンとしての利用を検討した。K43&45A凝集体を野生型マウスに免疫(合計3回)した後、それらの免疫マウス脳にマウスWT凝集体をシードとして接種した。今後、これらのマウス脳の病理学解析を行い、ワクチン接種により凝集体形成が抑制されるか否かについて調べる予定である。また他の変異体を作製し、それらの性質を調べるとともに、最近見いだされたパーキンソン病やレビー小体型認知症患者脳に蓄積するaS凝集体の構造に着目した変異体の作製・性質検討なども行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、多系統萎縮症患者脳に蓄積するaS凝集体の構造を基に、凝集体の形成に関与すると考えられる領域を推定し、そこに変異を導入した変異体を作製し、その性質決定を行うことを計画していた。数種類の変異体のうち、野生型aS凝集体よりもシード活性の低い変異体(K43&45A)を見出し、そのシード活性についてin vitroのみならず培養細胞およびマウスを用いた系で検討した。その結果、培養細胞やマウスの系においても、この変異体凝集体のシード効果は非常に低いことが確認できた。次に、K43&45A変異型凝集体にはシード活性が殆ど無いという性質に着目し、この凝集体がパーキンソン病やレビー小体型認知症などのシヌクレイノパチーの発症を予防するためのワクチンとして利用できるかについて検討を行った。さらに、予備的ではあるが、野生型マウスにK43&45A変異型凝集体を数回免疫した後、そのマウス脳にマウスaS凝集体をインジェクションした。今後、それらのマウス脳の解析を行う。以上のように、本研究は当初の計画通りに研究が進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、K43&45A変異型凝集体をワクチンとして接種したマウスを準備している。今後、それらのマウス脳に野生型凝集体をインジェクションし、シード依存的な凝集体形成がワクチン接種により抑制されるかどうかを調べる予定である。具体的には、ワクチンを接種したマウス脳に野生型凝集体をインジェクションし、1~3ヶ月後に脳を摘出する。その脳を用いてリン酸化aS抗体による免疫組織化学解析を行い、脳内に生じたaS凝集体量を定量し、ワクチン接種により凝集体形成が抑制されるかどうかを検討する。また最近、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者脳に蓄積したaS凝集体の構造がクライオ電子顕微鏡解析により明らかとなった。その構造はMSA患者脳に蓄積したaSの構造(MSA fold)とは異なることが示され、Lewy foldと名付けられた(Nature 2022)。MSA foldと同様にLewy foldの凝集体にも特徴的な領域が存在しており、現在、この領域に変異を導入した変異体をいくつか作製している。今後、これらの変異体の解析を行い、aS凝集体のシード効果に重要な領域・構造などを明らかにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナの影響等で実験に必要な試薬の入手に時間がかかったり、予定していたマウスを用いた動物実験(ワクチン接種及びシードインジェクション実験など)や病理解析(マウス脳より切片を用いた免疫組織化学解析)の時期がずれ、今年度中の一部の実験の実施が困難になったため。次年度使用が生じた未使用額は、研究計画に沿った試薬購入・実験動物購入などに充てる予定である。
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