2022 Fiscal Year Research-status Report
内臓痛特有の痛みをもたらす脊髄神経回路の同定とそのin vivo機能解析
Project/Area Number |
22K07383
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
西田 和彦 関西医科大学, 医学部, 助教 (80448026)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片野 泰代 関西医科大学, 医学部, 准教授 (60469244)
松村 伸治 関西医科大学, 医学部, 准教授 (70276393)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 内臓痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
疼痛は末梢組織で受容された後に脊髄に伝達され、脊髄後角神経回路での情報処理を経て高次脳中枢へと伝達される。近年の研究より体性痛の脊髄内伝達経路とそれに関わる神経細胞のサブタイプが明らかになりつつある。一方で内臓痛の脊髄内伝達については不明な点が多い。その理由の一つは、内臓痛を客観的に評価する動物実験系が十分に確立されていない事であると考えられる。本研究では、自発内臓痛である潰瘍性大腸炎モデルマウスおよび深層学習をベースにした疼痛評価系を用いて、自発内臓痛が評価可能であるかを調べた。また大腸伸展刺激を加えた際の内臓痛モデルの構築も併せて行った。 第一に、DSS飲水投与による潰瘍性大腸炎モデルマウスにおける疼痛レベルを痛みの表情による評価系を用いて調べた。解析は痛みの顔認証プラットフォームPainFace(McCoy et al., 2022)を用いて行った。撮影用のマウスのチャンバーは自作し、チャンバー内のマウスの顔表情を30分間にわたりビデオ撮影した。映像をPainFaceにアップロードすることにより痛みのスコアを得た。PainFaceスコアは飲水投与後に緩やかに上昇し、投与8日目には投与前の約2倍になった。このことから、DSS飲水投与による潰瘍性大腸炎モデルマウスでは確かに内臓痛が引き起こされていることが示唆された。 第二に、大腸伸展刺激による大腸内臓痛モデルの作成を試みた。大腸伸展刺激に用いるバルーンカテーテルは最近の報告(Qi et al., 2022、Neuron)に従い自作した。バルーンを野生型マウスの肛門に麻酔下で挿入し、100uLの水を注入することにより遠位大腸に伸展刺激を加えた。このマウスの脊髄における疼痛入力を調べるために、脊髄サンプルでのc-Fosの免疫染色を行った結果、第6腰髄から第1仙髄にかけての領域を中心に顕著なc-Fos陽性細胞の分布が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内臓痛のうち自発痛を客観的に解析するための顔認証による評価が可能であることが分かった。さらに内臓痛を力学的な刺激により誘導するための評価系の構築にも着手している。
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Strategy for Future Research Activity |
潰瘍性大腸炎モデルで誘導される内臓痛がどのような脊髄後角神経回路により伝達されるのかを確かめるために、2022年度確立した痛みの顔認証システム、および神経細胞の機能抑制により解析する予定である。機能抑制には、抑制性DREADDまたはジフテリア毒素を神経細胞種選択的に行うことにより実現する。脊髄後角神経細胞のうち興奮性、抑制性ニューロンの特異的なサブタイプにCreリコンビナーゼを発現する遺伝子改変マウスを用い、これらの脊髄後角に抑制性DREADD、DTAをCre依存的に発現するアデノ随伴ウイルスを注入する。これらのマウスでそれぞれのサブタイプのニューロンの神経活動を抑制した条件で痛みの顔認証の解析を行い、抑制の有無で痛みが抑制されているかどうかを調べる予定である。 また力学的刺激による内臓痛誘導系の確立についても引き続き進めていく。痛みの評価については、痛みにより引き起こされる嫌悪感、腹筋収縮反射の2つのアウトプットで評価する系を模索する。それぞれ、過去の知見(Qi et al., Neuron 2022、Christianson and Gebhart)を参考にして解析系を構築する。
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Causes of Carryover |
購入予定だった遺伝子改変マウス、およびアデノ随伴ウイルスの購入が2022年度中にできておらず、次年度使用額が生じることになった。 今後も、潰瘍性大腸炎モデル、大腸伸展刺激の導入の両面から内臓痛伝達の研究を進めていく。前者についてはモデルマウス作成のためのDSSの継続的購入、各種アデノ随伴ウイルスの購入、遺伝子改変マウスの購入、顔表情解析のためのビデオ撮影装置、照明装置の購入などに助成金を使用する。後者については実験マウスの継続的購入、大腸伸展刺激導入装置の作成に助成金を使用する。
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