2023 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症と気分障害における作業記憶ネットワーク障害のニューロンメカニズム
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22K07575
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
川端 梨加 金沢大学, 医学系, 研究員 (70726207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坪本 真 金沢大学, 附属病院, 助教 (40835906)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 死後脳 / 認知機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳皮質では、抑制性のガンマアミノ酪酸(GABA)を伝達物質として用いる抑制性ニューロンが存在する。これらのGABAニューロンは、その形態および機能により大きく3つの異なるグループに分類され、それぞれがパルブアルブミン(PV)、ソマトスタチン(SST)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)を特異的に発現する。本年度は、VIP陽性ニューロンのマーカーであるVIPをコードする転写産物(mRNA)の発現を、統合失調症患者、双極性障害患者、うつ病患者、並びに精神神経疾患の罹患歴のない健常対照者の背外側前頭前野にて定量し、各疾患間で比較した。解析には、22年度に準備した、性別が同じで、年齢、死後経過時間、脳の状態を反映する脳組織pHなどが近い、各患者および対照者のそれぞれ1名の計4名を1組とする40組(各グループ40名)から得られた背外側前頭前野の灰白質のRNAサンプルを用いた。その結果、VIP mRNAについては、 診断による有意な影響[F(3,150)= 3.73, p = 0.0013]が検出され、post hoc テストでは対照群と統合失調症群の間で有意な差(p = 0.007)が検出された。一方、対照、双極性障害、うつ病の各郡の間では有意差は認められなかった(p > 0.551)。また、統合失調症、双極性障害、うつ病の各群の間でも有意差は認められなかった(p > 0.138)。健常対照者と比較し、VIP発現量は、統合失調症では20.7%の低下しており、効果量は0.78(95% 信頼区間:0.32-1.24)であった。さらに、統合失調症患者において認められる抗精神病薬の使用、抗うつ薬の使用、抗不安薬と気分安定薬の使用、物質使用障害の合併、死因としての自殺について、VIP mRNAの発現量に及ぼす影響を、それぞれの因子の有無により統合失調症例を2群に分けて比較したが、いずれの比較でも優位な差は認められなかった(p > 0.080)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究代表者は、2023年度4月から体調不良による欠勤が多くなり、11月からは病気休暇に入ったため、予定していたとおりに研究が進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
背外側前頭前野におけるGABAニューロン変化について、VIP陽性ニューロンの一部に発現するカルレチニン(CR)の発現を、健常対照者と統合失調症、双極性障害、うつ病の各患者においてreal-time PCRにより計測し、各疾患における対照者からの変化を比較する。さらに、統合失調症、双極性障害、うつ病において、錐体ニューロンに選択的に発現し統合失調症の前頭前野で発現低下が報告されているBDNF及びNPTX2と錐体ニューロンの棘突起の変化を反映すると考えられるアクチン制御遺伝子などの発現変化を、作業記憶ネットワークを形成する背外側前頭前野、後部頭頂野、視覚野において評価する。
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Causes of Carryover |
代表研究者の体調不良により、23年度に予定していた健常対照者、統合失調症、双極性障害、うつ病の背外側前頭前野における遺伝子発現の多くが出来ず、VIP mRNAの解析には購入済みの試薬を用いたため、経費が発生しなかった。また、健常対照者および統合失調症患者の背外側前頭前野、後部頭頂野、視覚野などの複数の領域における錐体ニューロンに選択的に発現するBDNF, NPTX2, ARPC3, ARPC4, CDC42の発現解析も行うことが出来なかった。さらに、共同研修先への出張も研究の遅れから見合わせた。以上の理由により、次年度使用額が生じた。24年度は、CR mRNAの発現を統合失調症、双極性障害、うつ病の各患者と健常対照者の背外側前頭前野でreal-time PCRで定量するのに加え、錐体ニューロンに選択的に発現するBDNF, NPTX2や錐体ニューロンの棘突起の制御を行うARPC3, ARPC4, CDC42の発現量を健常対照者および統合失調症患者の背外側前頭前野、後部頭頂野、視覚野などの複数の領域で定量するために、キットおよび試薬を購入する。また、双極性障害およびうつ病患者の死後脳から背外側前頭前野、後部頭頂野、視覚野のサンプルを準備するために、研究分担者が共同研究先へ出張する。
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