2023 Fiscal Year Research-status Report
アレキサンダー病患者由来iPS細胞を用いたアストロサイトの病的変化誘発因子の探索
Project/Area Number |
22K07878
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Research Institution | Osaka Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
近藤 洋一 大阪医科薬科大学, 医学部, 教授 (40284062)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アレキサンダー病 / アストロサイト / 脱髄 / iPS細胞 / GFAP |
Outline of Annual Research Achievements |
アレキサンダー病研究において忠実な動物モデルができないのは、ヒトのアストロサイトがマウスなどと比べてより複雑な機能をもっているためであるとの仮説のもと、アレキサンダー病患者由来iPS細胞から誘導したグリア細胞を脳内にもつキメラマウスを作製して動物モデルとすることを試みている。これまでアレキサンダー病特異的グリア細胞キメラマウスの組織学的解析を進めていたが、アレキサンダー病の病理学的特徴であるローゼンタール線維がヒトアストロサイト内に出現しなかったため、その原因を考察してきた。アレキサンダー病発症にはグリア線維性酸性蛋白(GFAP)の遺伝子変異だけでは不十分で、何らかのトリガーとなるもの(例えば炎症性のシグナル)が関わって初めてアストロサイトの機能異常が生じると仮定した。前年度はH2O2を培地に添加することにより酸化ストレスを与える実験で、アストロサイト内にローゼンタール線維様の凝集物が生成することを示すことができた。本年度はアレキサンダー病の病変を生じる白質は血管の分布が比較的乏しく虚血に陥りやすいことに着目して、培養アストロサイトに低酸素低グルコース状態を負荷する実験を行った。まだ例数を増やす必要があるが、低酸素低グルコース負荷によりヒトアストロサイトにローゼンタール線維様の凝集が出現することがわかった。 患者由来iPS細胞を用いたin vivo実験では、アレキサンダー病の要因となるGFAP遺伝子変異をもつグリア前駆細胞は、変異を補正した細胞と比較して、よりオリゴデンドロサイトへ分化しにくい傾向があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
In vitroにて、アレキサンダー病患者由来培養アストロサイトを用いてローゼンタール線維形成を誘導する因子の探索を行っている。アストロサイトへの負荷として、これまで用いてきたH2O2に続いて、低酸素負荷を行った。脳虚血による負荷を再現するために、初代培養ヒトアストロサイトに対し低酸素 (2%) - 低グルコースを負荷したところ、aBクリスタリン免疫染色陽性のローゼンタール線維様ドット状構造物の数が細胞質内で1.5倍-2倍程度に増加していた。慢性、または一過性の虚血状態がローゼンタール線維形成またはアレキサンダー病発症のトリガーとなり得る可能性が示唆されたが、再現実験を繰り返す必要がある。 アレキサンダー病患者由来のiPS細胞2株(乳幼児期発症1株[A195-7]と学童時期発症1株[A266])とこれらの株の GFAP遺伝子変異部位を正常に戻した株(それぞれA195-7*、A266*)を用いた実験では、大脳や脊髄の発生環境を模して分化誘導し、大脳や脊髄運動領域に発現している因子を確認した。これらの細胞からグリア前駆細胞を誘導し、さらに培養を続けると、脊髄領域の細胞に関しては、未熟なオリゴデンドロサイトのマーカーであるO4の発現が、A195-7*やA266*で上昇していた。大脳領域に関しては、PDGFRaの発現で判断するグリア前駆細胞への誘導効率が、A266*に比してA266で低い傾向があった。A195-7やA266で結果が異なることについては検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
In vitroでのアレキサンダー病患者由来培養アストロサイトを用いたローゼンタール線維の誘導については、予定通りにアストロサイトへの負荷物質の探索を行いながら進めていく。低酸素-低グルコース負荷によるローゼンタール線維の増加が示唆された。再酸素化48時間後のデータは低酸素負荷直後のものと変わらなかったため、再酸素化で生じる活性酸素による負荷よりも、実際の白質環境で起こりやすい低酸素状態がローゼンタール線維形成に寄与する可能性がある。今後、例数を増やして再現性を確認する一方で、アレキサンダー病患者由来アストロサイトではさらに低酸素負荷への感受性が高くなっていないかを確認したい。 A266株に関しては、in vitroの解析でGFAP変異によるオリゴデンドロサイトへの分化の障害または遅延が示唆された。今後は再現性を取るとともに、遺伝子発現の違いやマウスの脳内で移植細胞をさらに分化させたときの性質の違いを解析する予定である。 またin vitroで得たローゼンタール線維誘導因子が確定できれば、アレキサンダー病特異的アストロサイトを持つキメラマウスに対して、同様の因子を負荷をすることによりin vivoでもローゼンタール線維が誘導されるかを観察する。現在、移植細胞の増殖能が不十分との懸念を抱えており、培養条件の検討に時間がかかった場合、研究の進捗が遅れる可能性がある。場合によってはin vitroの発展、およびin vivoの代替としてアストロサイト・オリゴデンドロサイト・神経細胞を含む細胞凝集塊(スフェア)培養でのローゼンタール線維誘導実験を並行して行うことも検討する。
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Research Products
(1 results)