2023 Fiscal Year Research-status Report
病態モデルマウスを利用したムコ多糖症発症メカニズムの解明と治療法の開発
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22K07927
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Research Institution | National Center for Child Health and Development |
Principal Investigator |
真嶋 隆一 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 臨床検査部, 上級専門職 (00401365)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ムコ多糖症 / ライソゾーム病 / 疾患マウスモデル / グルコサミノグリカン / イズロン酸2-スルファターゼ / 酵素活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ムコ多糖症II型(OMIM 309900, mucopolysaccharidosis type II, MPS II)はライソゾーム病の1つである小児希少性疾患である。原因遺伝子はイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)である。良く知られる特徴としてグルコサミノグリカンの全身性の蓄積、電顕による空胞形成の確認などがある。主な臨床症状は中枢神経系で認められる脳の退行、骨格異常、肝脾腫を主とする内臓性疾患などである。ヒトにおいては重症型と軽症型の2病型に分けられており、脳の退行があるものが重症型、そうでないものが軽症型と区分されている。本疾患の遺伝子変異の中で多いものはIDS遺伝子の近傍に存在する偽遺伝子IDS2との相同組換による機能欠失である。次いで点変異体の頻度が高い。生化学的にはIDS-IDS2の相同組換え体の場合には残存酵素活性は無い。一方、点変異体の場合には酵素活性が残存する場合も多く知られている。この場合、具体的には活性中心とこの近傍、および基質の立体的な保持のために必要な陽性荷電基を有するアミノ酸などに変異がある場合には酵素活性値が著減する。一方、点変異が、活性中心から離れた場所にあるかもしくはタンパク質表面に認められる場合であって3次元的な構造変化が少ない場合には、酵素活性が残存することも多く、従ってこの場合軽症型となる。本研究では、ヒトで重症型に区分される点変異を有する疾患マウスモデルを作出し、脳(中枢神経系)をふくめて、肝臓をはじめとする内臓諸臓器について病態モデル解析を行う。その後得られた表現型の知見をもとに、研究期間後半で動物実験を中心とする治療法開発の検討を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画の前半では疾患マウスモデルの表現型解析を行い、後半部分で治療法の開発を計画している。本研究では、MPS IIの表現型のうち脳、骨格異常、内臓性疾患の表現型の解析を行うことを目的とした。令和5年度の成果として、疾患マウスモデルにおける早期の致死性、内臓性疾患、骨格異常などの表現型などを報告した(印刷公表済み)。本研究で作出した疾患マウスモデルはヒトにおける重症型を惹起する点変異を有する。研究開始時に計画していなかったことではあるが、論文査読時においては、査読者との議論の中で近年の高精度化したAIによるタンパク質の構造変化と機能推定を行うことを提案された。実際に行ったところ、本疾患マウスモデルは点変異を有するものの、3次元的な構造変化が、特に活性中心近傍で想像以上に大きいことを可視化できた。また生化学的には、疾患モデル動物作成時に導入した変異は活性中心近傍のアミノ酸であるために酵素活性に何らかの影響を持つと漠然と考えていたが、その後の文献検索等で当該アミノ酸はIDS酵素の活性化に必要な別の酵素(SUMF1)の標的配列であるPxCxRモチーフ(xは任意のアミノ酸)を含んでいることが明らかになった。また、後半部分の治療実験であるが、R5年度においては予備的な実験として、ハイドロダイナミック注入法によりCas9 mRNAと点変異修復用のテンプレートDNAを本疾患マウスモデルに投与した。この結果、末梢血のIDS酵素活性の若干の改善効果を認めた。従って現在までの進捗状況は概ね順調と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度においては内臓性疾患の表現型の報告を行った。そしてさらに末梢血のIDS酵素活性を指標とした治療法の開発を一部進めた。現時点での治療効果は低くそのままでは実用性に足るものではないが、今後の研究の推進方策の一つとして有用な知見と考えている。こうした予備データをもとに、令和6年度においては、本研究計画の後半部分である治療法の開発を、特に内臓性疾患に注目して進めることを考えている。これまでの先行研究ではアデノ随伴ウイルス、レンチウイルスなどのベクターシステムが確立している。こうした状況を踏まえて、今後、本年度においてはIDS遺伝子/タンパク質の過剰発現系に立ち戻って治療法開発を検討する。具体的には上記で述べたIDSの活性化に関するホルミルグリシン生成酵素をコードする遺伝子SUMF1の共発現系などを考えている。前半部分の表現型の解析研究については、MPS IIの他のマウスモデル、MPSの他の病型(MPS I~MPS VII)、さらには約50知られているライソゾーム病の疾患モデルマウスの間で共通に認められている表現型で、今回樹立した疾患マウスモデルでの精査が進んでいないものも多い。具体的には、LAMP2(Lysosome-associated membrane protein 2)の発現上昇、電顕による空胞形成の確認、などが挙げられる。本年度は、こうしたこれまでに未実施の点について検討したい。以上、R6年度における今後の研究の推進方策はおおむね申請書に記載の通りであり、引き続き進めて行きたい。
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Causes of Carryover |
前年度(計画2年目)においては次の理由で次年度使用額が生じた。まず研究用試薬および消耗品に関して、初年度に購入した試薬および他予算で購入した試薬の有効な利活用ができていたことが挙げられる。具体的には新規バイオマーカーには初期費用として誘導化反応試薬や分析カラムの購入費用が必要であるが、これが他の研究費で購入したものの残余分を有効に活用できた。また成果の取りまとめにある程度時間がかかり、消耗品の使用量が当初の計画を下回ったことも,次年度使用額が生じた理由と考えられる。これは、なにも研究の進捗が遅くなったという意味ではなく、研究活動で必要なトライアンドエラータイプの条件の最適化実験が少なくなったため、換言すれば前年度の条件検討により本年度における追加の条件検討が不要になったため、と考えている。本年度(計画3年目、最終年度)においては、追加の研究の実施、および成果の取りまとめを引き続き進める。近年は、投稿論文がオープンジャーナルであるものがほとんどであること、この掲載料が約50万円になるものも多く大変に高騰していること、さらに円安の影響もあり、本申請の計画立案時よりも相乗的に非常に高騰している。貴重な研究費は限られており、事前に使用計画を立てて効率良く使用してゆきたい。
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