2023 Fiscal Year Research-status Report
分子標的薬耐性肺がんにおける薬剤耐性獲得機構の解明と代謝制御を利用した治療法開発
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22K08293
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
中嶋 亘 日本医科大学, 医学部, 講師 (40557500)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中道 真仁 日本医科大学, 医学部, 助教 (10837446)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 代謝リプログラミング / 薬剤耐性 / 耐性克服療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
がんの分子標的薬は初め有効であるが、分子標的薬に応じた薬剤耐性を生じることが問題となっている。肺腺がん細胞の耐性化には細胞内外のストレスに適応する能力の中で代謝適応を介して悪性化を促進する「代謝リプログラミング」が重要であると考え、EGFR変異陽性に対する分子標的薬耐性獲得機構の解明と、耐性化に強く関わっている代謝適応に関する研究を行ってきた。その中の薬剤耐性獲得機構の一つとして、細胞内の酸化的リン酸化を亢進することが耐性獲得に寄与していることが分かった。これまでに、酸化的リン酸化を阻害するような薬剤を分子標的薬osimertinibと同時投与すると耐性化した細胞にも顕著な抗腫瘍効果を誘導することを報告してきた。 (1)酸化的リン酸化を規定する因子の探索 薬剤耐性株と感受性株由来のミトコンドリアを単離、精製した後、代謝関連因子の増減量の変化を質量分析装置により解析した結果、酸化的リン酸化を制御する新規候補因子をいくつか同定した。 (2) EGFR変異陽性肺腺がんにおけるがん免疫療法阻害効果との関係 同定した因子の一つは、がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬(ICI))の効果を妨げる機能をもつ分子の一つであるとの報告があった。近年ICIを中心としたがん免疫療法の開発が急速に進み、肺がん領域でもがん免疫療法の治療薬として承認された。しかしながらEGFR変異陽性肺腺がんにおいてはその効果が限定的なものとなっている。そこで免疫原性の低いマウス腫瘍モデルを用いて、同定した因子の発現を抑制したマウス乳がん細胞(4T1)を皮下注射したマウスの腫瘍形成が抑制できるかどうかを検討したところ、腫瘍は形成されなかったが対照群では腫瘍を形成したことから、同定した因子の遺伝子発現抑制による腫瘍増殖抑制効果は免疫系に依存することが示唆された。これまでの結果を第82回日本癌学会学術総会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの経過から薬剤耐性獲得機構の一つとして、細胞内の酸化的リン酸化を亢進することが耐性獲得に寄与していることが分かり、複数ある酸化的リン酸化を制御する因子候補を同定した。しかしながら、この候補因子群の中からどの因子を重点的に解析していくかにあたり、重要な因子を選択し見極める過程で時間がかかってしまった。これまでの結果、文献調査等及び実験経過の検証をおこなってきたたところ、薬剤耐性獲得機構とは別に、EGFR変異陽性肺腺がんでのがん免疫療法の問題点を克服できる可能性を見出すことができた。実際に臨床の現場で難渋している課題へ移行することになったが、研究課題として重要度の増した新たな報告ができるのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究経過から見出した酸化的リン酸化を制御する因子を解析していくうちに、ある因子が免疫系に作用することが示唆された。またこの因子は、肺腺がんの中でとりわけEGFR変異陽性変異肺腺がんで高発現していることが肺腺がん細胞株の解析からわかってきた。さらには、分子標的薬の耐性を獲得していないEGFR変異陽性細胞株とそれ以外の肺がん細胞株とで分けても、EGFR変異陽性細胞株全般で発現量が多いことが観察された。これまでの報告からEGFR変異陽性変異肺腺癌では、免疫チェックポイント阻害薬による効果は期待できないとされてきたが、その効果を妨げているのは本研究で発見された因子による影響が考えらえた。これらの仮説を検証するために今後は、胸部悪性腫瘍患者に対するICIの治療効果と本因子との関連性の評価を行いたい。胸部悪性腫瘍に対して化学療法を実施された患者を対象とし、生検や手術において採取された組織標本の診療残余検体(切除標本ブロック、プレパラート)を用いて本因子を対象とした免疫染色を行い、腫瘍微小環境を評価する。また診療録より臨床病理学的情報を抽出し、腫瘍微小環境との関連性について後方視的な解析を行う。診療残余検体(切除標本ブロック、プレパラート)・臨床病理学情報(病理診断情報・カルテ情報等)を用いる後方視方的な解析を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
前年度に行えなかった実験を当該年度に行う予定であるため。特には、生検や手術において採取された組織標本の診療残余検体(切除標本ブロック、プレパラート)を用いて、免疫染色を行い、腫瘍微小環境を評価するのに予算が必要である。また、これまでの実験系を裏付ける検証用の実験として各分子生物学的実験予算が必要である。
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