2022 Fiscal Year Research-status Report
腎のPTP-ζ発現が腎疾患の進展と全身症状に与える影響
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22K08319
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
和田 幸寛 北里大学, 医学部, 講師 (10465172)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | PTP-ζ / 腎線維化 / IL-34 / 線維芽細胞 / 尿細管上皮細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本邦の慢性腎臓病 (CKD)患者は増加の一途を辿っており、医療経済の大きな負となっている。CKD進展過程において、腎線維化はあらゆる腎疾患の終末像であり、CKDが全身性に合併症 (貧血や心血管病など) を呈することから、腎線維化の病態を解明しCKD進展防止への知見を集積することは重要となる。 一般に、線維芽細胞が形質転換した筋線維芽細胞の集積が腎線維化の主因とされている。筋線維芽細胞へ形質転換される要因の一つに、マクロファージ (Mq)による不適切な炎症増幅がある。これまで我々はMqの増殖因子であるInterleukin-34 (IL-34) に着目し、様々な実験的腎障害モデルにおいてIL-34が腎病変の増悪因子であることを報告し、片側尿細管結紮 (UUO)モデルにおいてIL-34の阻害が腎線維化を抑制したことも報告した。 IL-34はMqに発現するCSF-1受容体 (c-FMS)とは別に、protein-tyrosine phosphatase ζ receptor (PTP-ζ) にも結合して作用することが示され、我々の既報でも、障害腎組織ではIL-34だけでなく、c-FMSやPTP-ζの発現も亢進していた。しかし、腎障害進展機序におけるIL-34の受容体の影響は未解明な部分が多く、特にPTP-ζと腎線維化に関連する報告はない。よって、PTP-ζを遺伝的に欠損させたノックアウト (KO)マウスにUUOによる腎線維化を誘導し、野生型と比較検証して、腎線維化におけるPTP-ζの関与を明らかにする目的で、本研究を開始した。 現在、中国Cyagen社に依頼し、CRISPR/cas9にてPTP-ζを遺伝的に欠損させたKOマウスの作成に成功しており、同社から雄と雌のKOマウスをそれぞれ本学へ搬入し、繁殖中である。また線維芽細胞を用いたin vitroの検討にも着手できている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は主に以下1)-3)の実現を目標とした。1) PTP-ζ KOマウスの作成と繁殖 2) 線維芽細胞を用いたin vitroでの検証 3)UUOモデルマウスにおけるPTP-ζの発現とIL-34中和抗体の腎線維化抑制効果の総括 1)に関しては中国Cyagen社に依頼し、CRISPR/cas9にてPTP-ζを遺伝的に欠損させたKOマウス作成に成功し、genotypingにてPTP-ζの欠損を確認できた。同社から雄と雌のKOマウスをそれぞれ2匹ずつ購入して本学へ搬入し、現在それらの雄雌マウスから新規のKOマウスを繁殖中である。今後、繁殖にて必要な雄のKOマウスの確保に成功した後に、KOマウスにUUOによる腎線維化を誘導して、腎線維化の程度をWTと比較検証する予定である。 2)に関しては、ATCC社よりマウス線維芽細胞であるNIH/3t3の細胞株を購入し、継代培養に成功した。培養された線維芽細胞はTGF-βで刺激され、α-SMA陽性の筋線維芽細胞への形質転換誘導を確認しており、IL-34とTGF-βで共刺激した細胞はTGF-β単独あるいは無刺激の線維芽細胞に比べ、α-SMAの発現が優位に高度となり、PTP-ζの筋線維芽細胞への発現亢進も確認できた。得られた結果は、当初の仮説に合致しており、今後再現性の確認、条件を変えてのデータ採取などを行う予定である。 3)に関しては、既に大方の結果が得られている。具体的には腎線維化を呈したUUOモデルにIL-34の中和抗体を投与すると、非投与郡に比べて、腎線維化が有意に抑制されて、IL-34だけでなくその受容体のPTP-ζの発現もIL-34中和抗体投与群で抑制されたことから、腎線維化にはIL-34だけでなく、PTP-ζも深く関与することが改めて確認できた。 以上から、本研究は当初の実験計画に沿って概ね順調に遂行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、PTP-ζ KOマウスの繁殖に成功させて、必要なKOマウスを確保していく。既にbreeding gageを複数設定しており、今後問題なくKOマウスの繁殖と確保が可能と考える。その後、週齢を合わせたWTのB6マウスを購入し、KO群とWT群にUUOを施行して、腎線維化の程度を病理学的に評価し、線維化関連因子の発現をqPCR法などで確認する。さらに両群間のMqの浸潤程度、受容体のリガンドの発現、Mqのpolarization (M1 vs. M2)についてもFACSや蛍光抗体法などで評価していく予定である。 動物モデルで得られた結果の妥当性と詳細なメカニズムを検証するために、マウス線維芽細胞であるNIH/3t3株を購入して培養継代し、それをTGF-βで刺激して、筋線維芽細胞への形質転換をα-SMA発現の程度から評価する。その後、IL-34でもNIH/3t3を刺激し、TGF-βとIL-34の両刺激する実験系も構築し、単独刺激及び無刺激群と筋線維芽細胞への形質転換の程度、細胞株のPTP-ζの発現をqPCR法やwestern blottingなどによる確認する、現段階ではある程度仮説に合致した結果が得られており、IL-34とTGF-βで共刺激したNIH/3t3のα-SMA発現が単刺激及び無刺激より有意に増加し、PTP-ζの発現も共刺激群で有意に増加していた。今後は得られた結果の再現性を確認し、条件設定を変えても同様な結果が得られるかなどを検証していく。
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Causes of Carryover |
本年度はCyagen社でのPTP-ζKOマウスの作製、同社からの搬入、本学での繁殖に多くの費用を要した。更に、基礎研究のset upのためにIF用の一次抗体やWestern blotting用の1次および2次抗体、メンブレン、qPCRのprimer、assay kitなど多くの物品を購入した。 よって、2022年度に想定していた経費は23年度、24年度よりも多大であったが、一部抗体の購入を翌年に持ち越せたもの、2022年度以前に既に購入済みであった物品などがあり、想定していた購入費用の一部が保留となって、約12万円相当の次年使用額分が発生した。2023年年度も当初の予定通り、必要な物品(elise kitやqPCR primerなど)を購入し、本年度に頻繁に使用したIFやFACSなどの1次抗体、2次抗体などは追加で購入を検討する予定である。
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