2022 Fiscal Year Research-status Report
An experimental interference of metabolic reprogramming of T cells for a pathophysiological management of allergic dermatitis
Project/Area Number |
22K08433
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
大森 深雪 愛媛大学, 医学系研究科, 講師 (30462667)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | アレルギー性皮膚炎 / T細胞 / 細胞内代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
アレルギー性接触皮膚炎の症状は、アレルギーの原因となる抗原の皮膚への接触を回避することにより、沈静化させることが可能である。しかし実際、抗原となる物質の候補は無数にあり、抗原を特定することは極めて難しい。また、仮に抗原が特定できたとしても、それらは日常生活や社会生活と密接に関わることが多いため、実生活から切り離すことは困難である。そこで本研究では、アレルギー性接触皮膚炎がT細胞を介して発症する点に着目し、T細胞が炎症性形質を獲得・維持する過程で動的に変化する細胞内代謝を制御することで、アレルギー性接触皮膚炎の症状が抑えられる可能性を問う。 バリア機能が低下した皮膚から体内に入り込んだ抗原の分子情報は、リンパ節でT細胞へと提示される。この抗原の情報を認識したT細胞で早期におこる一連のシグナルの活性化は、解糖系代謝、グルタミン代謝、ミトコンドリア生合成などの代謝系プログラムを活発化させ、その結果、膨大なエネルギーを生み出せる細胞へと変化させる。これらのT細胞は、エネルギーを消費しつつ細胞分裂を繰り返し、やがてエフェクター機能を獲得する。エフェクター機能を発揮したT細胞の一部は、しばらくすると、代謝系プログラムを再び変化させ、抗原情報を記憶した細胞として体内に残る。以上の過程を代謝リプログラミングと呼ぶ。 初年度の研究成果として、申請者らは、特定の代謝系プログラムの稼働に必要な遺伝子をT細胞特的に欠損したマウスを作出し、その代謝系プログラムの遮断が、アレルギー性接触皮膚炎の発症を回避することを明らかにした。また、発症の過程で認められるリンパ節でのT細胞数の増加や機能獲得が、T細胞で代謝系プログラムを遮断したマウスでは著しく低下することを見出した。以上の結果は、T細胞での代謝リプログラミングの遮断が、アレルギー性接触皮膚炎の発症制御に有効である可能性を示唆した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らは、T細胞特異的解糖関連酵素欠損したマウスを作出し、対照マウスと共にアレルギー性皮膚炎を誘導した。その結果、対照マウスに比較して、解糖関連酵素欠損マウスでは抗原特異的な皮膚炎症がごく軽微にとどまり、所属リンパ節でのT細胞の数、機能分子である炎症性サイトカインの産生能、炎症局所へ集積する炎症性細胞の数が低下することを明らかにした。これらの炎症応答の低下は、制御性T細胞優位な環境で起こりうる。そこで次に、所属リンパ節および炎症局所に集積した炎症性T細胞数と制御性T細胞数のバランスを解析した。その結果、いずれの部位でも、炎症性T細胞数と制御性T細胞数のバランスの不均衡は観察されなかった。すなわち、T細胞特異的解糖関連酵素欠損したマウスで見られた炎症応答の低下は、炎症性T細胞数と制御性T細胞数のバランスの破綻ではなく、炎症局所に集積するT細胞数の低下、機能分子である炎症性サイトカインの産生能の低下に起因する可能性が示唆された。この炎症局所へ集積するT細胞数の低下には様々な理由が想定される。しかし初年度は、その理由について追求するには至らなかった。最後に、抗原を頻回投与した局所皮膚に集積した免疫細胞を解析・同定した。その結果、T細胞数はT細胞特異的解糖関連酵素欠損したマウスでは低く、一方、樹状細胞数は増加傾向にあった。また、統計的有意差はなかったものの、好中球、マクロファージ、ガンマデルタT細胞の集積数低下も確認された。以上のことから、T細胞特異的解糖関連酵素欠損マウスでは、炎症局所への解糖関連酵素欠損T細胞の浸潤が何らかの理由で起こりにくくなっており、その結果としてT細胞およびその他の炎症性細胞の集積も起こりにくくなっていることが明らかになった。以上の結果から、T細胞における解糖関連酵素の発現は、アレルギー性接触皮膚炎の発症に不可欠であることが明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究の結果、T細胞特異的解糖関連酵素欠損マウスでは、皮膚へのT細胞の浸潤がごくわずかしか起こらないことが明らかとなった。申請当初の研究計画では、必要細胞数が集まらない時の対応として、複数のマウスの細胞をプールして実験を反復することを考えていたが、使用するマウスの数を増やしたとしても、次年度以降の予定した解析に必要な細胞数を確保することは、現実的に難しいと判断した。初年度の研究の結果として浮き彫りになった以上の課題と国内外の研究状況を受けて、2年目以降の研究方針を以下のように転換することとした。 アレルギー性接触皮膚炎の炎症局所に集積したT細胞の代謝状態に関しては、国内外で研究はあまり進んでいない。そこで、2年目以降は、野生型マウスを用いてアレルギー性接触皮膚炎の発症を誘導し、炎症局所へ浸潤したT細胞をいくつかの炎症状態のフェーズに分けて解析する。申請当初に計画した内容について、各フェーズの比較として、代謝状態、エピゲノム状態、遺伝子発現を解析する。他のオプションとして、各種代謝阻害剤投与したマウスと対照マウスを比較して、どのような代謝系プログラムが、皮膚炎の病態の寛解に有効であるのかについて明らかにする予定である。
|