2022 Fiscal Year Research-status Report
新型コロナウイルス感染症における新規自然免疫受容体の役割の解明
Project/Area Number |
22K08586
|
Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
植松 崇之 北里大学, 北里大学メディカルセンター, 室長補佐 (90414060)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 新型コロナウイルス / 自然免疫 / 感染症 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らの研究により、インフルエンザ肺炎増悪化の責任因子の一つとして同定された自然免疫活性化受容体であるIgSFR2は、糖鎖修飾依存的にウイルス由来タンパク質を認識する可能性が明らかになっている。また、さらなる検討の結果、IgSFR2は特異的な病原体センサーとして機能するのではなく、肺における広範なウイルス受容体として機能する可能性が示唆されている。そこで、本研究ではIgSFR2の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)受容体としての機能を生化学的手法により明らかにするとともに、げっ歯類SARS-CoV-2感染モデルに対するIgSFR2リガンド投与の治療効果を検討することを目的とした。 まず、本研究計画の1年目である2022年度では、豊富な糖鎖修飾を受けることが知られているSARS-CoV-2 Sタンパクの組換えタンパクを用いて、生化学的手法によりIgSFR2との結合特異性について検討した。武漢株およびオミクロン株(BA.2)に由来するSARS-CoV-2 SタンパクをELISAプレートに固相化し、293細胞にて発現させた組換えIgSFR2-Igを用いてin vitroにおける結合を評価したところ、IgSFR2-Igは双方のSARS-CoV-2 Sタンパクへの結合性を示した。 また、両者の結合の成立が細胞内シグナル伝達に関わるか否かについても、レポーター細胞を用いて検討した。IgSFR2とアダプター分子であるDAP12を発現する2B4 NFAT-GFPレポーター細胞を組換えSARS-CoV-2 Sタンパクで刺激し、フローサイトメーターを用いて解析したところ、双方のSタンパクによるNFAT-GFP活性化の程度は微弱であり、明確な傾向を認めることが出来なかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、IgSFR2がSARS-CoV-2受容体として機能する可能性を検討すべく、SARS-CoV-2 Sタンパクの組換えタンパクを用いて、上記に記載した生化学的および細胞生物学的手法によりIgSFR2との結合特異性について検討した。その結果、当初予定していた実験は概ね滞りなく終了し、一定の新規性を有する重要な知見を得ることができた。しかし、SARS-CoV-2 Sタンパクは豊富な糖鎖修飾を受けることから、これまでのインフルエンザウイルスを用いて実施してきた研究経過から鑑みて、SARS-CoV-2 SタンパクとIgSFR2との結合は非常に強いと想定していたものの、予想に反して両者の関係性は非常に弱いものであった。このため、この結合性は組換えSタンパクを実験に用いたことに由来するのか否かを検証するため、現在もSARS-CoV-2ウイルス粒子を用いて同様の実験を展開しており、最終的な実験結果の確認に予想以上に時間を費やしている。 また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴ってスタートした別の研究課題の実施に予想以上のエフォートと時間を費やしてしまい、再現性の確認も含め、年度内に予定していた全ての実験を完全に終了させるまでに至らなかった。 以上の理由から、2022年度の進捗状況に関する評価としては、全体を通じて「(3)やや遅れている。」とした。次年度以降は、エフォート配分などにも注意しながら、研究計画調書に記載した解析を全て終了させ、今後の研究のさらなる進展に向けた有望な結果を得ることが出来ればと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は研究計画2年目となるが、まずは前年度から実施しているIgSFR2によるSARS-CoV-2認識が成立するかについて、改めて実験系を精査しつつ、BA.5.2.1やXBB.1などの他のオミクロン株由来のSタンパクとの結合についても評価したい。 IgSFR2はマクロファージなどの免疫担当細胞に高発現する一方で、SARS-CoV-2の直接的な感染標的となる肺胞上皮細胞などの非免疫担当細胞にも発現する。そこで、2022年度では、IgSFR2がSARS-CoV-2感受性細胞におけるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)依存的感染の介添受容体として機能する可能性を想定し、SARS-CoV-2感受性細胞におけるIgSFR2をはじめとするITAM関連受容体発現の意義とその機能を検討する。 具体的にはまず、ヒト肺胞上皮由来のCalu-3やA549, ヒト大腸由来の Caco-2, ヒト肝臓由来のHuh7などの培養細胞株およびヒトPBMCから誘導したマクロファージに蛍光物質やpHインジケーターで標識したSARS-CoV-2を感染させ、細胞表面におけるSARS-CoV-2の吸着と侵入機構について、蛍光顕微鏡やフローサイトメーター等を用いて解析する。 また、ACE2を強制発現するA549細胞を用いて、種々の界面活性剤を含む緩衝液にて細胞溶解液を作成した上で、ACE2複合体を単離する。なお、ACE2発現A549細胞にはSARS-CoV-2を感染させ、経時的に調製したものを解析サンプルとして用いる。続いて、単離した複合体をSDS-PAGEで展開した上で複合体中にIgSFR2が含まれているか否かをウエスタンブロットで解析するとともに、必要に応じてゲル内消化タンパク質に関する質量分析を実施し、複合体中の構成因子を同定する。
|
Causes of Carryover |
(理由) 2022年度については、予定していた実験を概ね実施することが出来たが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、当初予定していた当研究課題に関する研究打ち合わせや研究発表を制限せざるを得ない状況が継続した。そのため、約10万円の繰り越しが生じる結果となった。 (使用計画) 2023年度の研究費は研究計画調書に記載した通りに、主としてマウスの維持と購入、ELISAやフローサイトメーター解析、ウエスタンブロットで用いる抗体や測定分析キット、分子生物学研究用の試薬などの消耗品の購入に充てられる。また、本研究を遂行する上で、細胞の分離培養を行うための試薬やプラスティック器具の購入も不可欠である。以上の消耗品の購入には、これまでの試算から年間80万円程度を見込んでいる。また、研究協力者との研究打ち合わせや学会参加・発表などのための旅費も必須である。これには年間10万円程度を見込んでいる。その他、受託解析費用(年間10万円程度)などの経費を加算し、2023年度の研究費として総額約100万円の使用を見込んでいる。なお、前年度からの繰り越し分については、2023年度の研究費に有効に組み入れ、経済的かつ合理的な執行に努めたい。
|