2023 Fiscal Year Research-status Report
筋インスリン感受性を介した時計遺伝子DBPによる糖・脂質代謝制御機構の解明
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22K08626
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
太田 康晴 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (60448280)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋山 優 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (90717547)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 筋肉 / インスリン感受性 / 時計遺伝子 / 糖取り込み |
Outline of Annual Research Achievements |
シフトワークや睡眠障害が糖尿病の要因となりうるが、その過程には時計遺伝子の異常が関与していると考えられている。E4BP4とDBPはD-boxに作用する出力系の時計遺伝子である。我々はこれまで転写抑制因子であるE4BP4に着目し、過剰発現マウスを用いて研究を行ってきたが、転写活性化因子であるDBP自体の糖代謝における役割を十分に明らかにできていなかった。そこで全身型Dbp欠損(DBP KO)マウスを樹立し、解析を継続している。同マウスは、インスリン分泌不全があるにもかかわらず耐糖能異常を呈さないが、この要因が筋肉のインスリン感受性亢進と糖取り込みの増加にあることを見出した。Zeitgeber Time(ZT)1にインスリン負荷試験(ITT)を行うと、負荷後60分以降で、野生型(WT)マウスに比べKOマウスの血糖値は明らかに低値であるが、ZT13で行ったITTでは、WTマウスにおいても血糖値が低下するため、KOマウスとの間に有意な差が認められなくなる。つまりWTマウスでは、活動時間と非活動時間でインスリン感受性に差があるのに対し、KOマウスでは常に筋肉のインスリン感受性が高いことがわかった。ZT4における血中NEFA濃度がKOマウスで低いことがその要因の一つであると考えられるが、その他のメカニズムを探索する目的で、ZT0と12でWTマウスとKOマウスから採取した腓腹筋のトランスクリプトーム解析を行った。その結果から、ケモカインの一つであるCCL5とそのレセプターであるCCR5の発現変化に着目し、解析を行っている。CCL5は筋収縮によってその発現が低下するマイオカインとしての報告もあり、DBP KOマウスでは、筋収縮でCCL5が低下しにくくなっていることが、筋肉での恒常的な糖取り込み増加に関与していると考え、解析をさらに進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DBP自体は、インスリン分泌や肝臓の糖産生に関与していることは、E4BP4過剰発現マウスの結果から推測されるものであったが、骨格筋におけるインスリン感受性の概日リズムに大きく関与していることはあまり予想できていなかったため、新しい知見を得ることができているという観点からはこの研究が順調に進展していると考えている。このメカニズムの解明を中心に現在も研究を継続しているが、トランスクリプトーム解析の結果からは、白血球の活性化や炎症/免疫といったこれも予想していないメカニズムに繋がる可能性がある。DBP欠損マウスから採取した初代培養肝細胞を作成し、それを用いた解析も進んでおり、また骨格筋特異的DBP欠損マウスもすでに樹立できており、これを用いた解析も開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在用いているDBP欠損マウスは129/svとC57BL6のハイブリッドのバックグラウンドであるため、表現系の解析に少なからず影響を与えている可能性がある。そこで、CRISR/Cas9システムを用いた新たなDBP欠損マウスを樹立した。このマウスは純粋なC57BL6のバックグランドのマウスであるため、マウスの系統による影響を受けないが、一方でオフターゲット効果の懸念もある。このマウスを用いて、先行して研究を進めていたDBP欠損マウスの表現系と同じ表現系が得られるのか否かを解析を進めており、骨格筋のインスリン感受性の結果に関しては同様の結果を得られつつあり、引き続き解析を進めていく。また、Flox-DBPマウスを既に樹立し、Creリコンビナーゼ(Cre)発現マウスとの交配によって様々な組織での組織特異的DBP欠損マウスが作成できる状況になってアクチンプロモーター下でCreを発現する骨格筋特異的DBP欠損マウスをまず作成した。同マウスの糖代謝を中心とした表現系を解析していく。DBP欠損マウスは胎生期からの欠損マウスであるが、耐性致死や明らかな筋骨格系の異常は認められない。しかし骨格筋の最終分化や脂肪細胞などに問題が起こっている可能性は否定できない。そのため、間葉系幹細胞に必要な転写因子(例えばVEGFRなど)のプロモーター下でCreを発現するマウスとの交配によって、間葉系幹細胞特異的DBP欠損マウスを樹立することも検討していく。
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Causes of Carryover |
今年度は、CRISPER-CAS9システムを用いたDBP欠損マウスの樹立、骨格筋特異的DBP欠損マウスの樹立に要した期間に当たっていたため、解析の費用やマウスの飼育費が予定していたよりも少なく、使用額もやや少なくなった。次年度は、これらのマウスの解析費用、飼育費がかなり増加する見込みであるため、それらにその費用を充てたいと考えている。
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