2022 Fiscal Year Research-status Report
生活習慣による代謝物プロファイル変化を介する前立腺癌の増殖制御
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22K09447
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
波多野 浩士 大阪大学, 大学院医学系研究科, 講師 (60762234)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 和利 近畿大学, 医学部, 准教授 (50636181)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 前立腺癌 / 生活習慣 / メタボローム / 運動 / 発癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化社会の到来をむかえ、前立腺癌の罹患数および死亡数の増加が問題となっている。科学的根拠に基づくがん予防法を確立することで多くの人が健康長寿を享受できる社会作りにつながる。前立腺癌の発がんと進展には遺伝的素因に加えて生活習慣が大きく関与する。生活習慣の中でも、高脂肪食を特徴とする欧米型の食生活や肥満は前立腺癌の進展を招く。申請者らはPten遺伝子を前立腺特異的にノックアウトした前立腺癌発症マウス (Pb-Cre+;Ptenfl/fl)を用いて、高脂肪食摂取によりがんの増殖が促進することを明らかにしてきた。前立腺癌の増殖には免疫細胞を介する前立腺の慢性炎症、さらに腸内細菌叢由来の短鎖脂肪酸が関与する。申請者らは、生活習慣による前立腺癌の代謝物プロファイル変化を解明するため、メタボローム解析手法を樹立した。前立腺癌発症マウスモデルにおいて、腫瘍の増大を認める高脂肪食群では通常食群と比較して腫瘍内のダイナミックな代謝物プロファイルの変化が生じており、One-Carbon経路が活性化することを発見した。 生活習慣への介入はがんの発症・進展の予防に有用である。疫学研究から様々な癌腫において適度な運動によるがん発症リスクの低下が報告されている。前立腺癌においても適度な運動は死亡リスクを低下させるが、そのメカニズムは未解明である。本研究では、マウスモデルを用いて高脂肪食摂取および運動療法による介入を行う。メタボローム解析を軸とした統合的な解析を行い、前立腺癌の代謝リプログラミングを解明するとともに、がんの増殖を制御する代謝物を同定する。さらに、マウスモデルで得た知見をヒトで検証し、代謝物プロファイルに基づく新たな前立腺癌リスク評価モデルの創出を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らはすでに前立腺腫瘍組織および血液検体を用いたメタボローム解析による代謝物プロファイル解析法を樹立している(大阪大学薬学部 辻川和丈教授、長谷拓明助教との共同研究)。前立腺癌発症マウス(Pb-Cre+;Ptenfl/fl)に高脂肪食を摂取させると腫瘍内のダイナミックな代謝物プロファイルの変化が惹起されOne-Carbon経路が活性化した。関連する代謝物の同定を進めており、すでに増殖促進性の代謝物の候補を得ている。前立腺癌細胞株(DU145、PC3)を用いた検討において、今回同定した代謝物による増殖制御の実証を行っている。高脂肪食を摂取した前立腺癌発症マウスでは血液中でも本代謝物の増加を認めた。 申請者らは適度な運動による腫瘍増殖の影響を検討するために、マウス用ランニングホイールを導入し、自発的回転かご運動モデルを作成した(運動ケージ群)。前立腺癌発症マウスに5週齢から高脂肪食を摂取させ、通常ケージ群と運動ケージ群に分けて22週齢まで飼育したところ、運動ケージ群で通常ケージ群と比較して有意な腫瘍縮小効果を認めた。両群間での腫瘍細胞増殖をKi-67免疫染色で検討し、さらにメタボローム解析によって代謝物プロファイル変化の検討を進めている。 前立腺生検患者検体を用いたメカニズムの検証を行うために、他施設共同で、説明同意を得られた前立腺生検を受ける患者より血液・便を採取し、食生活・肥満度・運動習慣の各項目を含む生活習慣アンケートを実施している。現在までに980名の検体の収集を終えており、生活習慣アンケート調査も終えている(回収率 82%)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、前立腺癌発症モデルマウスとして前立腺特異的Ptenノックアウトマウス(Pb-Cre+;Ptenfl/fl)を用いる。5週齢より通常食もしくは高脂肪食を摂取させ、運動介入群では自発的回転かご運動を開始する。前立腺癌の増殖を有意にとらえることができる22週齢にて評価を行う。前立腺を採取し、重量とKi-67陽性率で癌の増殖・進展への影響を評価する。アンターゲットメタボローム解析ではESI 法にてイオン化を行い、正イオンおよび負イオンモードの測定を実施する。各ピークの質量電荷比(m/z)からデータベースを用いて代謝物の同定を行う。ターゲットメタボローム解析にはLC/MS/MSを用いる。本検討により、高脂肪食摂取群ではがん増殖促進性の代謝物を、運動群ではがん増殖抑制性の代謝物を探索・同定する。 16SリボソームRNA解析を用いた腸内細菌叢解析、質量分析による細菌代謝物解析、フローサイトメトリー・免疫染色による免疫細胞の評価を行う。マウスモデル、前立腺癌細胞株を用いて、同定した代謝物を投与もしくは阻害剤を用いて抑制し、前立腺癌の増殖・進展に与える影響を検討する。得られた結果から、生活習慣による代謝物プロファイル変化と前立腺癌増殖を制御する代謝物の同定、そのメカニズムの解明を行う。 申請者らは、説明同意を得られた前立腺生検を受ける患者より血液・便の採取、および生活習慣アンケートの収集を終えている。本コホートを用いて、血液中の代謝物をターゲットメタボローム解析(LC/MS/MS)により定量する。同定した代謝物を癌の有無、悪性度別に比較検討し、代謝物と生活習慣および前立腺癌との関連を検証する。得られた結果をもとに、代謝物プロファイルに基づく新たな前立腺癌リスク評価モデルを創出する。
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Causes of Carryover |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行金額が異なった。
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