2022 Fiscal Year Research-status Report
Identification of the two-component sensor mutations which suppress fimbriation of a periodontopathogenic bacteria
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22K09952
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
西川 清 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (50340146)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 遺伝子相補 / 発現ベクター / 変異導入 / 菌株ライブラリー / 2成分制御系 / AtoC |
Outline of Annual Research Achievements |
最重要の歯周病原細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(以下Pg菌)は菌体表層のFimA線毛を使ってヒトの歯肉溝に定着し、歯肉の炎症や骨吸収を引き起こす。FimA線毛の産生を人為的に抑制できれば本菌の病原性を著しく減弱でき、歯周病予防・治療への応用が期待できる。Pg菌がもつ2成分制御系センサーFimSは、FimA線毛に関連する全ての遺伝子発現に必須の膜タンパク質であるが、本菌生息環境中の如何なるシグナルを受容し線毛産生を促進しているのかは不明である。 本研究課題は、Pg菌FimSセンサーの環境シグナル受容部をコードする遺伝子領域に人為的な変異が導入された菌株を多数作製し(変異導入菌株ライブラリー)、それによりFimA線毛を欠失した株が有するFimSセンサー内のアミノ酸置換を網羅的に解析する手法により、環境シグナル受容に必須でFimA線毛産生阻害薬の標的にもなり得る重要アミノ酸群を同定することを目的としている。 FimSのシグナル受容部に適切な頻度で様々なアミノ酸変異が生じたPg菌株をできるだけ多数得ることが、本研究課題を成功させるポイントである。初年度は、その前提として求められる再現性の高いPg菌への遺伝子導入プロトコルの確立に集中した。遺伝子導入ツールには研究代表者が構築した発現ベクターを用い、変異導入FimS遺伝子よりも短期間で容易に調製できる代替試験材料として別の2成分制御系因子AtoC遺伝子をそれに組込み、AtoC欠失Pg菌株への遺伝子相補実験を繰り返し行った。 その結果、AtoC遺伝子相補株が再現性良く得られる実験条件を突き止め、接合伝達法によるPg菌への発現ベクター導入プロトコルの確立に成功しただけでなく、副産物としてAtoCの標的遺伝子候補も同定できたため、その成果を英語論文にまとめ、学会誌上で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、Pg菌への遺伝子導入方法として、初年度内で確立済の大腸菌を介した接合伝達法の他に、発現ベクターを直接Pg菌株へ導入・相補する電気穿孔法を応用したプロトコルの確立も併せて計画していた。後者の方法は大腸菌とPg菌の混合培養が不要であるため、実験行程を接合伝達法よりも大幅に簡略化できる利点がある。しかし、予備実験では成功していたはずのプロトコルに従い実験を行ったところ、期待したほどの高い導入効率は得られず、その原因を探るべく現在も条件検討を継続中である。 また、FimSセンサー遺伝子へのPCRを応用したランダム変異導入効率に関しても、予備実験で採用したプロトコル通りでは当初期待したほどの十分な変異導入効率が得られないことが判明したため、PCRの条件検討まで遡って原因の究明作業を行った。その結果、変異導入のための1回目のPCR反応(エラープローンPCR)自体には問題がなく、そのPCR産物を更にfimS発現ベクターへ組換えるための2回目のPCR反応(インバースPCR、iPCR)の終了後に行っていた、鋳型の野生型fimS DNAの選択的消化反応が不十分であった可能性が強まった。ここまで原因を突き止めるのに予定外の時間と労力を費やし、当初目標としていた初年度内での変異導入菌株ライブラリー作製に着手する時期がやや遅れてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の令和5年度は先ず、適切な頻度で変異が導入されたFimS遺伝子を調製し、それらを発現ベクターへ組換えたプラスミドライブラリーの作製と品質評価を早期に完了させる。具体的には、1回目のPCR(エラープローンPCR)で行うFimSセンサードメイン遺伝子内へのランダム変異導入に関し、1クローン当たりのアミノ酸置換数が1~3か所程度に抑えられたものと、その2倍程度の頻度で置換を生じる変異が入ったものの2通りのライブラリーを作製する。両者を併用することにより、個々のアミノ酸のFimA発現への貢献度を網羅的に解析する際、作業効率の大幅な向上が期待できる。条件検討は既に開始しており、これまでのところ良好なデータが得られているため、新年度の早い時期には完了できる見込みである。 次に、野生型fimS遺伝子を破壊したPg菌株への変異型fimS遺伝子相補プロトコルを確立し、fimS内の様々な部位に満遍なく変異が導入されたPg菌株ライブラリーをできるだけ早い時期に作製完了する。そして個々の相補菌株におけるFimA線毛発現レベルの定量解析を、fimA遺伝子転写レベルとFimAタンパク質翻訳レベルの両面で推進する。 FimA表現型解析と並行して、各相補株がもつFimSセンサードメイン内部のアミノ酸置換部位をDNAシークエンス解析から推定し、個々の置換とFimA発現レベルとの対応付けとグループ分けを行ったうえで、逐次立体構造モデルへのマッピングを進めていく。このようにしてデータを蓄積していけば、FimSセンサー内の環境シグナル受容に必須のアミノ酸群が、それらの立体的な位置関係と共に徐々に明らかになっていくはずである。
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