2022 Fiscal Year Research-status Report
Snailが口腔がん細胞のpartial EMTとEMTを分別して支配する機構
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22K10171
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
飛梅 圭 広島大学, 医系科学研究科(歯), 准教授 (40350037)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | EMT |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞のEMTにおいて上皮形質と間葉形質を併せ持つ細胞が中間段階として存在することが確証されてきた。しかし、「中途半端」なEMTであるがゆえにひとつの細胞株で、安定的に上皮形質-partial EMT形質-EMT形質を再現、単離し解析することは困難で、湧き出てくる学術的問い「partial EMT形質とEMT形質を分離制御する機構の解明」は難航している。申請者らはSnail導入によりpartial EMT形質とEMT形質を安定的に保持するがん細胞サブクローン群を継代維持し、それらを用いた解析結果から、学術的問いへの答えを得る。新規にpartial EMT-EMTの往来に呼応して発現ON/OFFを受けるSnail標的遺伝子群を同定することを目指し,今年度実施した本研究計画では、Snailとは独立して機能するEMTマスター転写因子ZEB1のエピジェネティクな制御がキーとなることを発見、報告した。 LSD1は,クロマチンのヒストンマークを修飾し,エピジェネティックな遺伝子発現プロファイルを変更することで腫瘍の悪性化に関与することが知られている.このため, LSD1に対する化学阻害剤の抗がん作用が期待されている. EMTのマスター転写因子(EMT-TF)のSnailが標的とする上皮細胞間結合接着分子の発現抑制は, SnailとLSD1が会合し,標的遺伝子のヒストン修飾を間葉型へと変換することでなされる.このため, LSD1阻害剤は上皮形質を維持する培養癌細胞のEMTを抑制すると予測されてきた。本研究では, 予想外にLSD1阻害剤単独処理が上皮形質を維持するOM-1細胞のEMTを誘導し,がん治療として期待される作用とは反対の作用を示すことを見出し,その分子機序を同定した。LSD1阻害剤による化学療法において、この機序は回避されるべき重大事項であることを世界で初めて提示できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はLSD1がZEB1の転写をクロマチン構造を変化させることで抑制し, LSD1の化学的阻害によりZEB1転写制御領域のヒストンマークは変更され, ZEB1の発現は解放されEMTが誘導されることを発見した. これにより口腔がん治療へのLSD1阻害剤適用において, 考慮すべき重要な反作用を報告したことは学術的に大きな意義がある。本研究計画目的の遂行という観点では、Snailとは独立して機能するEMTマスター転写因子ZEB1のエピジェネティクな制御がSnail依存的なpartial EMT形質-EMT形質を分別して支配する機構であることを発見したことがおおむね順調に計画が進展していると考える理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
NGS解析でSnai1が誘導するpartial EMTとEMTで発現プロファイルが一致する遺伝子、どちらかに特異的な発現を示す遺伝子群を抽出することで、なぜ、同じ転写因子Snailを発現するOM-1の遺伝子発現プロファイルが変化しpartial EMTとEMTが段階的に制御できるのか、個々の標的遺伝子の機能を俯瞰的にとらえ、その統合される生理機構を以下の2点で明らかにしたい。 1.partial EMTとEMTでSnailが結合するゲノム上のサイト分布が変化するか? この可能性を検討するために、pEMT OM-1Snai1とEMT OM-1Snai1細胞をそれぞれ抗Snail抗体を用いたChIP-seq解析に供し、全ゲノム配列上でのSnail結合サイトを網羅一覧する。解析結果はNGSデータとして得られるため,ゲノム上に結合サイトをマッピングすることで両細胞間でのSnail結合配列の分布の違いが定量的に明確になる。 2.partial EMTとEMTでSnailは発現調節領域への結合を変えず、Snailの形成する転写因子複合体の構成変化により、近辺のクロマチン構造、具体的にはヒストンの修飾が変化するのか?この可能性を迅速かつ強力に検討するためにATAC-seqを用い、まず全ゲノム上のクロマチンアクセス可能サイトを網羅一覧し定量的に両細胞間でのクロマチン構造が異なるゲノム領域を同定する。さらに1で得るChIP-seqと 既に得ているRNA-seqをゲノム上に同時にマッピングして一覧することで、Snailの結合サイト近辺のクロマチンの修飾によるON/OFF機構が働くSnail標的遺伝子の網羅的把握を実施する
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Causes of Carryover |
本年度ヒストン脱メチル化酵素の阻害のみによって、口腔扁平上皮がん細胞の上皮間葉転換が誘導されることを新たに発見した。さらにヒストン脱メチル化酵素が集積する標的遺伝子の特定領域の配列にEMT-TFと総称される転写因子群がクロマチン免疫沈降法により濃縮されることをPCRにて確認できた。当初の予定より半年早くこれら基礎的データを集めることができた。次年度予算1,000,000円より500,000円を前倒し請求することで、次年度予定していたヒストン脱メチル化酵素の阻害の有無でこれら転写因子の集積が変化するクロマチンランドスケープをChip-Seq法を用いて同定する計画を前倒しで実施する予定であったが一部の実験を持ち越すため382,741円は次年度使用額となった。
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