2023 Fiscal Year Research-status Report
p53の機能獲得変異は口腔扁平上皮癌の治療標的となり得るか
Project/Area Number |
22K10177
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
松田 亜沙実 札幌医科大学, 医療人育成センター, 研究員 (30897533)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 泰史 札幌医科大学, 医療人育成センター, 教授 (70322328)
荻 和弘 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40433114)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | p53 / 機能獲得変異 / 口腔扁平上皮癌 / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,口腔扁平上皮癌をモデルとして,変異型p53のGOF(gain-of-function)によって変化するトランスクリプトームの全貌を解明し,p53ネットワークのさらなる理解につなげることである.変異型p53を標的とした治療法の開発につながる基礎研究を目指している.TP53のGOF変異は,がん遺伝子の活性化変異と類似の作用を示すことが予想され,新しい分子標的の同定に進展する可能性がある. 本年度は以下の研究成果をあげた。 1)血液中を流れる患者特有のがん由来DNA(ctDNA)について、NGS、およびデジタルPCRを用いた超高感度検査を確立し、種々の癌患者診療における実用性を明らかにした。 引き続き追加症例(食道扁平上皮癌患者22例、口腔扁平上皮癌5例、頭頚部癌22例、大腸癌18例)のctDNA モニタリングのフォローアップを継続して行っている。 2) 食道の表皮化(epidermalization)粘膜に発生した上皮内扁平上皮癌についてがん関連遺伝子の異常を解析した。p53変異、がん関連遺伝子のコピー数異常が癌部だけではなく表皮化粘膜からも検出され前癌病変であることが示唆された(Pathology Int. 73: 327-329, 2023)。 3) 野生型p53、およびTAp63/p73がmiR-142-3pの転写誘導を介して核外輸送受容体XPO1を発現抑制していることを明らかにした。p53ファミリーがmiRNAを介して自らの機能を増強させる正のフィードバック機構を示唆しており、新たながん治療の標的となりうることを示した(論文投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)次世代シークエンサー解析、およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から、野生型、および変異型p53に制御されるタンパクコード遺伝子、非コードRNA、miRNAを複数同定している。 2)野生型p53により翻訳が上昇し、GOF活性を持つ変異型p53によってその効果が減弱する短いORFとして第17番染色体長腕の遺伝子間領域に存在するコドン数44の領域を同定した.その領域から翻訳されるマイクロプロテインをp53MP1と命名し細胞内発現の検討を行ったところ,野生型p53導入により細胞核に発現誘導されることを見出した.p53MP1の核局在は細胞増殖を抑制し,臨床検体での解析で予後不良に関連することを明らかにした. 3)GOF活性を評価した変異型p53発現プラスミド、またはアデノウイルスベクターを細胞株に導入し、細胞増殖能、抗がん剤感受性の解析を進めている。 4)野生型p53、およびTAp63/p73がmiR-142-3pの転写誘導を介して核外輸送受容体XPO1を発現抑制していることを明らかにし、論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では野生型・変異型p53によって制御されるトランスクリプトームを網羅的,かつ効率的に同定し,がんの発症・進展における役割を分析することで,p53ネットワークによる腫瘍抑制メカニズムのさらなる理解を目指す. 今年度は同定された変異型p53標的候補となるトランスクリプトームのうち、マイクロプロテインについて特に着目する.上記ゲノムレベルに加え,ペプチド抗体の作成,および質量分析等でタンパク質レベルでの解析を行う.また発現ベクターの導入による浸潤能,遊走能,増殖能などに与える影響,種々の分子生物学的手法を用いた転写・翻訳調節機構の解析を行う.さらに公共のデータベース(RefExA,GEO, cBioPortalなど)の活用,文献情報,モチーフ検索などを行い,増殖,細胞死,細胞分化などの機能的な面から,腫瘍の進展に関与することが予想される分子を絞り込む.また,臨床病理学的因子や治療反応性との相関を分析することで,臨床的な意義を見いだしていく.
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Causes of Carryover |
本年度は癌症例のRNA-seq(タンパクコード遺伝子・lincRNA),small RNA-seq(miRNA)の解析(細胞株のランスクリプトーム)を行ったが、大学予算の試薬を使用できたため、充分な実験データが得られた。前年度の残額を含め最終的に53万円あまりの次年度使用額が生じた。 <使用計画> 施行済みの次世代シークエンサー解析、およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から、GOF変異p53に制御される非コードRNAの候補を同定している。成果の一部を学術誌に投稿予定である。 新規症例の解析とともに、研究を他の癌に拡げることを計画しており、食道扁平上皮癌での共同研究を進めたい。細胞レベルでの発現・転写解析のための試薬類(次世代シークエンス試薬約100万円)、臨床検体でのRNA発現解析のための試薬類(酵素類約30万円) 等に使用予定である。
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