2023 Fiscal Year Research-status Report
転写因子Foxo1の癌血管正常化における可能性の探索
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22K10186
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田村 潔美 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (90399973)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 血管新生 / 伸長 / 形態 / 癌 / 転写調節 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗癌剤を腫瘍に浸透させ十分な薬効を得る上で、腫瘍血管の脆弱性は大きな課題である。そのため腫瘍血管を正常化させることで抗癌剤の到達性を改善させる戦略が提唱されているが、その分子機構は不明である。私は、血管形成において必須のプロセスである血管内皮細胞の伸長機能に、転写因子FOXO1が重要な役割を果たすことを報告している(J Cell Sci.,vol 129,p1165-1178,2016)。また、これまで平滑筋細胞分化マーカーとして知られているTAGLN(SM22)が、血管内皮細胞の伸長に伴い発現し伸長機能の抑制に関与することを報告した(J Cell Sci.,vol 134,jcs254920,2021)。FOXO1遺伝子のノックアウトES細胞由来の血管内皮細胞は、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)刺激による血管伸長機能を消失しており、正常な血管新生を示さない(J Cell Sci.,vol 129,p1165-78, 2016)。DNAアレイの解析により、血管伸長機能の消失に内因性PP1阻害因子であるPPP1R14C(KEPI)の発現減少が関与することが示唆された。そこで本課題では、培養系と動物実験を用い、FOXO1の標的遺伝子であり伸長機能を担う分子としてPPP1R14Cを同定し、FOXO1-PPP1R14C-ミオシン軽鎖2(MLC2)経路が血管新生に必須であることを明らかにした。MLC2はTAGLNとともに、病的血管内皮細胞において発現が大きく変化する因子として知られているが、その機能の詳細は不明であった。本課題における、血管伸長を調節する因子の同定は、血管新生の初期プロセスを制御し、血管構造を正常化するメカニズムの開発につながると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、主にヒト正常血管内皮細胞(HUVEC)の培養系とゼブラフィッシュの動物実験を用いて、PPP1R14CのFOXO1標的遺伝子としての可能性と血管新生における役割の解明を行なった。HUVEC において、siRNAによるFOXO1のノックダウンは、血管新生を抑制しPPP1R14Cの発現とMLC2のリン酸化を減少させた。この細胞にPPP1R14C遺伝子を導入したところ血管新生の抑制の回復が見られた。ヒトとマウスのPPP1R14C遺伝子についてレポーターアッセイ、またCUT&RUNアッセイを行うことで、PPP1R14Cのイントロン1の領域に存在する2つのFOXO1結合配列を同定した。PPP1R14C遺伝子は、FOXO1の直接的な転写調節を受けると考えられる。 in vivoでのPPP1R14Cの機能を解析するため、ゼブラフィッシュ胚を用い、モルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)によるFOXO1またPPP1R14Cのノックダウンを行なった。FOXO1、PPP1R14C-ノックダウンはゼブラフィッシュの体節間血管(intersegmental vessel,ISV)の伸長を抑制し、尾部静脈叢(caudal vein plexus,CVP)の構造異常を引き起こした。in vitroの結果と同様に、FOXO1-ノックダウンゼブラフィッシュではPPP1R14C発現の減少が見られたことから、PPP1R14C mRNAの導入を行なったところ、FOXO1-ノックダウンによる血管長の減少が回復した。 これらの結果から、FOXO1がPPP1R14Cの転写調節を介してリン酸化MLC2の蓄積を促し、その結果アクトミオシンの相互作用が変化することで血管内皮細胞の細胞伸長が誘導され、血管新生が促進することが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、HUVECの培養系とゼブラフィッシュのin vivo実験を用いて、FOXO1とその標的遺伝子による血管新生の調節メカニズムの解析を行う。HUVECは、3次元コラーゲンゲル(3D)サンドイッチ培養を行い、この培養モデルにおいて阻害剤やsiRNAによる遺伝子ノックダウンの効果を検討する。3Dサンドイッチ培養により、生理的な血管新生に近い環境での細胞動態の詳細を解析できると考えている。 またゼブラフィッシュは、血管内皮細胞特異的にmCherryを発現するトランスジェニック系統を用いて、発生期の血管発生をリアルタイムで観察する。ゼブラフィッシュ成魚の交配により受精卵を得て、標的遺伝子のMOを胚にインジェクションすることで遺伝子発現のノックダウンを行い血管形態の変化を解析する。さらにmRNAのインジェクションにより遺伝子発現の誘導効果を検討する。また適時、マウス生体を用いた遺伝子発現やホールマウント免疫組織染色などの解析を行う。 in vitroとin vivoの実験系を用いて、FOXO1と標的遺伝子のノックダウン実験、レスキュー実験等により、個々の因子の機能と相互作用を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度は、FOXO1によるPPP1R14Cの転写調節を介した血管新生制御のメカニズムについての研究が大きく進展し、その成果を報告できた。しかし、ゼブラフィッシュのTAGLN MO-ノックダウンの実験系については修正が必要となった。MOによるノックダウンの標的として、タンパク質の翻訳を阻害するMO (atg-MO)とmRNAのスプライシングを阻害するMO(splice-MO)がある。当初、TAGLNのatg-MOを用いた検討を行っており、血管形態において変化を誘導する知見を得ていた。しかし、ゼブラフィッシュのTAGLNタンパク質のノックダウンを確認する過程で、ウェスタンブロットでの検出が非常に困難であることがわかった。そこで、今後は、PCRによりノックダウン効果を確認できるsplice-MOによる方法に変更し、再度、血管形成におけるTAGLNの役割の解明研究を行う予定である。
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Remarks |
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