2022 Fiscal Year Research-status Report
Empirical Studies using Mixed Methods Research on and Normative Considerations concerning Medical Assistance in Dying
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22K10357
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
浅井 篤 東北大学, 医学系研究科, 教授 (80283612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大北 全俊 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (70437325)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | Voluntary assisted dying / 自発的な幇助死 / 日本文化 / 障害者差別 / 賛否両論 / ビクトリア州VAD法 / エンドオブライフ / 医師患者関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は(1)二つの論考の発表、(2)実施予定調査の質問項目案の考案、および(3)Voluntary assisted dying(VAD、自発的な幇助死)の問題に関連し得る2つの他領域の課題についてパイロット的な調査を実施できた。 まず(1)については医師による自発的積極的安楽死および自殺幇助を意味するVADに対する現代日本の主要な賛否両論を文献研究を用いて実施して明らかにし、BMC Medical Ethicsに発表することができた。賛成については患者の自己決定尊重、耐え難い苦痛からの救済など他の国々と共通する見解が認められた。他方、反対論についてはVADそのものに対する反対論、VAD法制化に対する反対論、そしてVADについて議論を開始すること自体に対する反対論が認められた。また本論ではVAD議論のために豪州Victoria州で実施されているVoluntary assisted dying Act 2017が議論の出発点になると論じた。 さらに日本で優勢なVAD反対論に対して、規範倫理議論および実際にVADを様々な形で遂げた3名の人々の事例や発言を用いて反論を試み、その結果をClinical Ethicsに発表することができた。我々の反論には、VADを求める人々の「二重の苦しみ(double suffering)」の存在、個体としての個人の死と社会的死の差異、文化の可変性、他者への負担になることを理由とした希死の問題点、VAD反対論に生じ得る「滑りやすい坂」議論、そして、VADを求める人々に障害者差別や国家の優生思想の責任を負わせることの間違いが含まれた。 (2)については意識調査に用いる質問項目候補として50項目を作成した。(3)についてはVADに関わる意思決定に密接に関わる医師患者関係と、高齢一般市民のメンタルヘルスと終末期ケアに関する話し合いの現状について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に初年度に予定していた本邦で論じられているVADに関する賛否両論、今までの事例の特徴、歴史的推移を分析することができた。本邦での1990年代までの安楽死事例は、患者は末期状態または臨床的脳死状態と診断されており、患者を死に至らしめるために薬物が投与された時に患者に意識がなく、明確で熟慮された本人の要請が欠如しており、いずれも非自発的安楽死で範疇に入る行為であった。 一方で2018-2019年に発生した自発的幇助死の三事例は、明確で熟慮された本人の死の要請があり、死ぬ直前までの正常な意識状態で、死期は必ずしも差し迫っておらず、回復不能な身体的かつ精神的苦痛があり身体障害のため自力で死ぬことが困難であった、そして必要な医療ケア介護を受けていた等の特徴があった。 また本邦のVADに対する反対論は日本文化の特徴が色濃く認められるものもあり、「人は自分の死について自己決定できる立場にない」、「患者の疾患に関係のない事項(経済的問題、孤独等)が決定に影響する」、「患者は家族や他者のために死を選択する」、「社会的弱者に不利益を生じ死の強要に繋がる」「医療者家族関係に悪影響が生じる」、「関係者全員のコンセンサスの必要性」などがあった。他者の意向を忖度した意向、空気を読んだ結果の選択、他者の負担を考えた上での積極的医療の自粛などの存在が想定された。そして当該内容について国際医療倫理雑誌に論文を掲載できた。 第二に将来の全国調査に用いる質問内容の深みを増すことに寄与し得る、本邦のVAD反対論の問題点に関する論考もまとめることができ、考察結果をもう一つの国際臨床倫理雑誌に発表できた。第三に将来の全国調査に用いるラフなパイロット質問票を、今後のたたき台として作成できた。最後にVAD意思決定と深く関わる医師患者関係と一般高齢者のメンタルヘルスとエンドオブライフに関する話し合いについて検討できた。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に今までと同様に国内外のVADに対する論考についての調査を続け、賛否両論についての包括的なリストを作成する。 第二に個々の賛否両論の倫理的妥当性を深く検討し、瑕疵がある議論に関しては適宜反論を発表する。 第三に混合研究法を用いた実証研究で使用する質問項目をブラッシュアップしパイロット版を完成させる。プロトコルの詳細を確定した上で、研究実施の倫理承認を得る。現時点では日本国民に対して、1)医師によるVAD(自殺幇助と自発的積極的安楽死)の現状、2)特定の状況における医師の自殺幇助に対する賛否両論に関する見解、3)特定の状況における医師の自殺幇助に対する意見、4)回答者背景をそれぞれ質問する。医師による自殺幇助を『法によって定められた手順に則り、医師から薬物処方を含む幇助を受け、患者本人が熟慮した上で、自分の人生を自らの手で終わらせること』と定義する。現時点ではVoluntary assisted dying act (Vic 2017)を参考に、1)患者は成人した日本国民である、2)医師による自殺幇助に関して患者は冷静に考えて、自分で決めて意思の表明ができる、3)患者は治癒不可能で進行性の疾患を有しており予後が半年以内である、4)患者は緩和できない耐えられない苦痛を経験している、5)患者は時間をおいて複数回の自殺幇助の要請ができる、6)二人の医師が患者が上記の条件を満たしていることを確認する、7)患者の自殺幇助依頼には、二名の立会人の署名した正式な書類の提出が必要、8)患者自らが自殺幇助要請を行う(他の誰も患者に代わって当該依頼をすることはできない。医師は患者に本制度を使用することを決して示唆してはならない)を基本的な前提とする予定である。その上で、同調査の結果を研究発表すると同時に、引き続き倫理審査を受けた上で、少人数の医療専門職を対象としたインタビュー調査を実施する。
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Causes of Carryover |
自発的幇助死について想定していたよりも文献研究及び結果発表に必要な研究費が少なかったこと、および初年度中に実際の調査実施までには至らなかったこと、また調査実施に必要となる物品などの購入を次年度に回したため20万程度の次年度使用額が生じた。これについては二年目の実証研究準備、倫理審査料金および調査実施に用いる予定である。
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Research Products
(2 results)