2022 Fiscal Year Research-status Report
サイトカイン・ケモカインを指標とするクラッシュシンドロームの法医学的診断法の確立
Project/Area Number |
22K10618
|
Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
石上 安希子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (60359916)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (10364077)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | クラッシュシンドローム / 骨格筋 / 虚血-再灌流障害 / サイトカイン / フラクタルカイン / ケモカイン / マクロファージ / 法医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
内閣府による南海トラフ巨大地震の被害想定(令和元年発表)では,建物被害が全壊・焼失合わせて約80万~200万棟と,甚大な被害が予想されている.倒壊した建物などで四肢が圧迫された後救出されてもクラッシュシンドロームを発症し死に至る可能性がある.法医学的見地からのクラッシュシンドロームに関する研究はなく,骨格筋の虚血-再灌流障害についての実験的研究が臨床医学,法医学双方にとって有益な情報を得られるものと考えられる.本研究課題は,クラッシュシンドロームの原因である骨格筋の虚血-再灌流障害に関わる分子病態生理を解明し,法医学的診断に有用な指標となり得るサイトカイン・ケモカインを見いだすことを目的としている. サイトカイン・ケモカインに関連する遺伝子に対するノックアウトマウスを使用した下肢の虚血-再灌流モデルを作成した.すなわち,ゴムバンドを用いて,マウスの左鼠径部を60 分間結紮し下肢を虚血状態にし,その後バンドを除去し再灌流させた.レーザードップラーにて血流を測定し虚血および再灌流を確認した.再灌流後経時的(6時間,24時間)に左ヒラメ筋を摘出し,各種評価に用いた.対照群として,野生型マウスを使用して,同様に虚血-再灌流後左ヒラメ筋を採取し,ノックアウトマウスと比較検討した.野生型マウスの筋試料からtotal RNAを抽出し,リアルタイムRT-PCR法を用いて,サイトカイン・ケモカインや接着因子,白血球マーカーの遺伝子発現について検討した.その結果,野生型マウスでは経時的にCX3CL1,CX3CR1の発現量がそれぞれ増加していた.このことから,骨格筋の虚血-再灌流障害には,CX3CL1が関与しており,CX3CR1の欠損が好中球やマクロファージの誘導を抑制している可能性が示唆された. 今後は,CX3CL1に関連する接着因子や他のサイトカイン・ケモカインの動態について,明らかにする.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに,Cx3cr1ノックアウトマウスを使用した下肢の虚血-再灌流モデルを作成し,ヒラメ筋を摘出して各種評価に用いた.浮腫の評価では,Cx3cr1ノックアウトマウスは野生型マウスと比較して浮腫が軽微であることが明らかになった.リアルタイムRT-PCR法にて筋組織における種々の遺伝子発現を解析したところ,Cx3cr1ノックアウトマウスでは野生型マウスと比較して,F4/80,CCL17, CXCL1, CD163の発現量が有意に減弱していた.病理組織学的検索では,摘出したヒラメ筋を10%ホルマリンにより固定し,パラフィン包埋切片を作成し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行ったところ,Cx3cr1ノックアウトマウスでは野生型マウスと比較して炎症細胞浸潤が減少していた.免疫組織化学的検索では,好中球マーカーであるMPOの染色性がCx3cr1ノックアウトマウスで減弱していた.また, CX3CL1,CX3CR1のタンパク発現を血管壁に認めた. 今後,虚血-再灌流におけるCX3CR1の分子病理学的役割を解析するため,マウス虚血-再灌流モデルの試料の採取を進めている. 本研究の目的を達成するために,必要な結果を着実に得ており,最終年度終了までに目的を達成できると考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
日本は地震大国であり,地震による建物倒壊の際にクラッシュシンドロームを発症する人が多く発生することが予想される.さらに,2023年2月に発生したトルコ・シリア地震では,倒壊建物がトルコ国内で21万4577棟、シリアは1万棟以上と報告されている.それゆえ本研究課題は,国内のみならず,海外においてもクラッシュシンドロームのより安全な治療法の確立といった,法医学分野に限らず臨床医学分野においても,喫緊の課題を包括していると言える.そこで今後は次の点に重点を置いて研究を推進する. マウス骨格筋の虚血-再灌流障害モデルから得られた試料を用いて,CX3CL1に関連する接着因子や他のサイトカイン・ケモカインの動態について,遺伝子レベル,タンパクレベルでの解析を行う.加えて,野生型マウスに筋障害を発症させた後に,各サイトカインに対する中和抗体やリコンビナントタンパクを投与し,虚血-再灌流障害に対する治療効果を検討する. 以上の結果を総合して,虚血-再灌流による骨格筋障害および筋再生におけるCX3CR1の役割を明らかにし,クラッシュシンドロームの法医学的診断の確立のための成果とする.また,コンパートメント症候群に対する新規治療法開発へ寄与できる可能性のある知見を得ることを目標として,鋭意研究を継続していく.さらには,その他のケモカイン(CCL3, XCR1, CCR1, CCR2, CCR5, FPR1, FPR2)の病態生理学的役割解析にも着手する予定である. 以上の結果については,国内外の法医学や免疫学,炎症,創傷などに関連する学会や,関連する分野の国際学会誌に発表する予定である.
|