2022 Fiscal Year Research-status Report
塩素及びシアンの代謝産物に着目した新規中毒マーカーの探索と実用的診断法の確立
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22K10620
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
西尾 忠 帝京大学, 医学部, 准教授 (80401892)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野上 誠 帝京大学, 医学部, 教授 (20218291)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 法医中毒学 / 中毒マーカー / 揮発性有毒物質 / LC-MS |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、揮発性有毒物質による中毒(塩素及びシアン中毒)の判定に有用なマーカー分子のLC-MS分析法の開発を行った. (1)塩素中毒マーカー; 塩素化チロシン(クロロチロシン及びジクロロチロシン)を標的分子に設定し,固相抽出法と誘導体化LC-MS/MSを組み合わせた分析法を開発した.実際に,塩素中毒で死亡した遺体から採取した各種試料(血液,尿,肺等)を用いて分析を行ったところ,これら2分子の検出及び定量が可能であった.さらに,他の死因の遺体から得られた検体を用いて比較した所,クロロチロシンは塩素中毒の検体において有意に高値を示した.さらに,ジクロロチロシンは塩素中毒の検体にのみ検出された.これらの結果から,塩素化チロシンが有用な塩素中毒マーカーになり得ることが示された. (2)シアン中毒マーカー; ATCA(2-アミノチアゾリン-4-カルボン酸)を標的分子に設定し,液-液抽出法と誘導体化LC-MS/MSを組み合わせた分析法を開発した.本法を用いて,性別及び年齢別におけるシアン曝露量を評価した.この結果,男性では壮年期にピークがあり,女性では中年以降プラトーとなることが示された.また,低年齢では男女ともATCA濃度は低値であった.さらに,焼死体から得られた血液中のATCAを測定し,一酸化炭素-ヘモグロビン飽和度とATCA濃度に正の相関があることを見出した.焼死の主要因は急性一酸化炭素中毒と考えられているが,本法を用いることでシアン中毒の死因への寄与度を評価できる可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メインターゲットとしていた大部分の分子のLC-MS/MS分析法を開発し,実試料分析にまで展開した.すなわち,中毒死の検体とその他の死因の検体を用いて,標的分子の定量及び濃度比較まで行った.
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Strategy for Future Research Activity |
メインターゲットの一つであるATOEA(2-アミノチアゾリン-4-オキソアミノエタノール酸)の分析法の開発を行う.動物実験において,ATOEAはATCAと並んでシアン曝露の有力なマーカーと考えられているが,ヒト組織における検出例の報告はない.同時に,ATOEAの体内動態や体液中濃度等は一切不明である.このため,ヒト試料中における本分子の検出及び定量を達成し,有用なマーカーとなり得るか評価を行う.さらに,培養細胞を用いて中毒補助マーカー分子の探索を行うほか, 血液濾紙を用いた塩素及びシアン中毒の簡便な分析法の開発を試みる予定である.
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Causes of Carryover |
遠隔地への学会出張を予定していたが, オンライン開催となったため旅費申請分の使用額がかからなかった.また, 研究用消耗品の使用量を当初の予定より削減できたため, 次年度使用額が生じた. 来年度は, 消耗品量の増加や学会発表の回数が多くなると考えられることから, これらに費用を充てる.
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