2022 Fiscal Year Research-status Report
Construction of biofilm formation model and attempts of inhibition of biofilm formation and removal of biofilms in nursing care situation
Project/Area Number |
22K10753
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
永田 年 浜松医科大学, 医学部, 教授 (90275024)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山下 寛奈 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (20422751)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | バイオフィルム / カテーテル感染 / シリコンチューブ |
Outline of Annual Research Achievements |
現在の超高齢化社会においてますます在宅医療は増加し重視されてきている。在宅医療・訪問看護における感染予防は特に重要な課題である。ヒトの慢性感染症のほとんどはバイオフィルムが関連している。看護ケアに関連するバイオフィルムには、医療器具に付着して形成されるものと、創傷部位などの人体表面に形成されるものがある。医療器具に形成されるバイオフィルムの代表が、カテーテルチューブ内面のバイオフィルムである。実際の在宅医療現場ではコストの面から考えると経管栄養チューブ、吸引チューブ等の複数回使用を避けることが難しく、在宅で療養をおくる患者、特に高齢者に、これらのチューブ管理を身近で簡単に行える方法を提供することは、感染リスクを下げ安心な在宅医療へとつながることとなる。また皮膚の創傷部位に感染が起こると、微生物はその部位にバイオフィルムを形成し炎症が慢性化し治癒が遷延化する。 本研究の目的は、看護現場で関わるバイオフィルムに着目し、カテーテル内面および創傷部位バイオフィルムのin vitroモデルを構築し、それに対して看護ケアで使用できる種々の洗浄液、消毒薬、あるいは在宅でも利用できる溶液の効果を検討し、エビデンスに基づく効果的な看護ケアの開発につなげることである。まず初年度は、カテーテルチューブ内面に緑膿菌およびカンジダ・アルビカンスを用いてバイオフィルムモデルを作製した。バイオフィルム除去効果に関して、安価で手に入る各種溶液を検討したところ、次亜塩素酸ナトリウム溶液(キッチンハイター)が最も効果があった。またクエン酸、重曹、食酢の各溶液処理でもある程度のバイオフィルム除去効果を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、シリコンチューブ内面のバイオフィルム形成モデル(シリコンモデル)の構築および各種溶液のバイオフィルム除去効果を検討した。しかし、創傷部位バイオフィルムに関する実験は進んでいない。今年度、教育上の負担が大きくなり十分な研究時間が確保できなかったことが大きな要因である。 シリコンチューブ内に緑膿菌、カンジダの懸濁液を循環させバイオフィルムを形成させた。バイオフィルムの形成はクリスタルバイオレット染色で確認した。またチューブ内面のバイオフィルムを滅菌綿棒で採取し、ATP量を計測するとともに、寒天培地に塗布しコロニー数を測定した。バイオフィルムの形成には緑膿菌では5時間、カンジダでは1日以上の培養時間が必要であった。 シリコンモデルバイオフィルムを形成後、各種溶液を一定時間作用させクリスタルバイオレット染色、ATP量の測定、コロニー法による菌数の計測を行った。検討した溶液は、次亜塩素酸ナトリウム溶液、オゾン水、クエン酸水溶液、重曹水溶液、食酢である。緑膿菌バイオフィルムのクリスタルバイオレット染色では、次亜塩素酸ナトリウム溶液では顕著なバイオフィルム除去効果が認められたが、それ以外の溶液では有意なバイオフィルム除去効果を認めなかった。ATP量、コロニー数に関しては、クエン酸、食酢、重曹の各溶液でも、測定値の減少を認めた。カンジダバイオフィルムの場合、クリスタルバイオレット染色では、次亜塩素酸ナトリウム溶液およびクエン酸溶液でバイオフィルム除去効果を認めた。ATP量の測定では、重曹溶液、食酢溶液でも、コロニー数に関しては、重曹溶液でも、それぞれ測定値の低下を認めた。 これまでの実験では、バイオフィルム形成およびその除去効果の検討に際し、実験ごとのばらつきが大きく安定な結果を得ることが困難であった。安定した結果を得るために多くの時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、シリコンバイオフィルムモデルを用いた実験をさらに進めていきたいと考えている。各種溶液でシリコンチューブを処理した後のバイオフィルム形成状況を調べる予定である。また、3次元ヒト表皮培養系を用いた創傷バイオフィルム形成モデル(創傷モデル)の構築に関して、以下のように研究を進めていきたいと考えている。 12穴プラスチックプレートに入れたセルカルチャーインサートの中で線維芽細胞、ケラチノサイトの重層培養を行い、3次元ヒト表皮モデルを構築する。それを滅菌メスで傷つける。その後、菌懸濁液を創傷部に塗布しバイオフィルム形成の時間経過を分析する。バイオフィルム形成後に様々な洗浄剤・消毒薬を添加しバイオフィルム除去効果を検討する。また創傷モデルに、様々な洗浄液・消毒薬を添加した後、菌懸濁液を塗布してバイオフィルム形成を観察する。 創傷モデル検体にホルマリン固定、パラフィン包埋を行いミクロトームにより薄切を行う。組織染色を行い細胞配置や線維化等の形態学的変化を検証する。また創傷部位からバイオフィルムを採取し寒天培地に塗布しコロニー数を測定する。さらに、超音波顕微鏡を用いてバイオフィルム形成部位の硬さ・粘度・厚さの変化を検討する。
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Causes of Carryover |
初年度の研究では、主に、シリコン素材表面のバイオフィルムモデルの構築および各種溶液のバイオフィルム除去効果について検討した。このモデルの構築においては、既存の機器、器具を主に用いたため、予定の研究費を初年度に使うことができず次年度に持ち越すこととなった。線維芽細胞、ケラチノサイトを用いた3次元表皮モデルを用いたバイオフィルム実験では、シリコン素材表面のバイオフィルム実験以上に、ヒト細胞株や細胞培養関連試薬等の実験材料の購入に費用がかかることが予想される。次年度に持ち越した研究費は、それら実験材料、実機機器の購入のために使用予定である。また研究費は、次年度以降、情報収集や研究成果の発表のための学会参加費等にも使用予定である。
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