2022 Fiscal Year Research-status Report
触刺激が快情動を誘発する脳内回路の解明ーリハビリ意欲向上の神経基盤の構築
Project/Area Number |
22K11293
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
下重 里江 国際医療福祉大学, 基礎医学研究センター, 講師 (10433624)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 快情動 / 報酬 / 超音波発声 / 触刺激 / 脳波 / 行動 / 徒手療法 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
リハビリ治療では、触刺激を用いた徒手療法が行われる。対象者本人のリハビリに対する意欲の程度は治療成績を左右する。触刺激には種々の有益な生理的効果があり、意欲を含む快情動を誘発することが知られている。しかし、触刺激が快情動を起こす脳内メカニズムの詳細は明らかではない。本研究では、触刺激が快情動を誘発する脳内神経経路に着目し、リハビリ治療効果の科学的根拠の構築を目指す。 ラットは、快情動状態になると周波数特異的な超音波を発声する。申請者は、徒手による触刺激によって、快情動中枢の主要経路である中脳辺縁系ドーパミン神経系を介して快情動指標の超音波発声がみられることを明らかにした。さらに、この触刺激は、顕著な接近行動を誘発することから、強い報酬刺激であることを明らかにした。動物の快情動を客観的に評価することは困難であるとされてきたが、触刺激時の快情動超音波発声を解析する方法を用いることで、快情動を定量的に評価できる動物モデルを作成することに成功した。本研究の目的は、この快情動モデルを用い、触刺激が快情動を生起する脳内ネットワークを解明することである。 令和4年度では、快情動状態にある時の脳神経活動は特異的な変化を示すという仮説を立て、触刺激時の脳活動について脳波を用いて解析した。脳波のパワースペクトラル解析を行い、快情動超音波発声がみられるときの脳波の変化を検討し、研究成果の一部を国際誌に投稿した(査読中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、触刺激時の快情動超音波発声の脳内メカニズムの求心路について、後索路を外科的に切断して、超音波発声への影響を検討する予定であった。しかし、ラットへの手術侵襲が大きく、刺激時に手術部位を把持する必要があることと、回復までに長期間を要することより、検討方法を免疫組織化学的手法で活性部位を特定した後に、電気生理学的手法にて該当部位の活動を記録する方法に切り替えることにした。当初の計画を一部変更したことより、実験の進捗にやや遅れが出たが、現在は、疫組織化学的手法の手技を確立し、安定して脳活動が評価できる状況となり、今後本格的にデータを取ることができる段階に入った。
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Strategy for Future Research Activity |
触刺激は、局所的な身体的効果のみならず、リラクゼーションやうつ・不安の緩和といった精神的な効果をもたらす。ストレス社会である今日、リハビリテーションの分野にとどまらず、触刺激による快情動生起とその脳内メカニズムを解明する意義は大きいといえる。今後、当初の予定通り、快情動の主要中枢である側坐核のコアとシェルでの触刺激時の神経活動の違い、ならびに中脳辺縁系ドーパミン神経系を興奮させる入力経路と出力経路を電気生理学的手法と行動生理学的手法を併用し、明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
国内・国際学会での発表を予定したが、コロナ禍の影響により遠方での学会発表を行わず、旅費を使用しなかった。また、当初に予定していた脊髄後索を外科的に切断して、触刺激時の超音波発声への影響を検討する方法について、手術侵襲による超音波発声数の減少が予想されたため、研究手法を免疫組織化学に切り替えたことから使用匹数が減少し、次年度使用額が生じた。この変更は、触刺激時の脳内ネットワークを明らかにするという当初の目的に沿うものである。免疫組織化学的手法の遂行に必要なクリオスタットは施設共同利用のものを使用できるが、必要とする抗体と発色試薬の購入に充てる。電気生理学的手法に必要なヘッドステージアンプの購入にも充てる。
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