2023 Fiscal Year Research-status Report
人工内耳における聴神経変性を考慮した電気刺激波形の最適設計
Project/Area Number |
22K11298
|
Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
簔 弘幸 関東学院大学, 理工学部, 教授 (50190715)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 聴覚系神経補綴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、人工内耳装着者に音響情報を最も伝えやすくする電気刺激波形を見出すことである。これまで、聴神経を適切に制御する電気刺激の候補として、レートと振幅が同時に変調された双極二相性パルス状波形を提案している。しかしながら、聴神経の変性が想定されていなかったため、現状ではその状況での電気刺激波形の最適な条件を見出せるまでに至っていない。 令和5年度は、聴神経の軸索における髄鞘の萎縮が考慮された聴神経線維モデルにおいて、髄鞘の直径を健常時の2.5μmから、穏やかに変性が進んだ2.2μm、更に顕著に変性が起こった1.8μmまで変化させ、連続した2つのパルス状電気刺激において、2つ目の刺激に対するスパイク発火応答の基本的な性質が調査された。なお、連続する2つのパルス状電気刺激が採用されたのは、令和4年度で調査された単一のパルス状電気刺激に引き続く、基本的な刺激方法であったからであり、パルス状電気刺激波形の系列に対する応答を調査する前に、それらの応答の基本的な性質に関する知識を得ておく必要があったからである。 その結果、髄鞘の直径の減少にともなって、興奮を惹起させる2つ目のパルス状刺激電流の閾値は顕著に上昇するとともに、スパイク初期化の後に軸索を跳躍伝導するときの伝導速度は減少することが示された。また、スパイク発火応答初期化の時空間的性質は、髄鞘の直径の減少に伴って、空間的にはほとんど変化しないものの、時間的には分布が狭くなることが分かった。 これらの知見を、45th Annual International Conference of the IEEE in Medicine and Biology Conference Society, 計測自動制御学会ライフエンジニアリング部門シンポジウム2023において口頭発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、聴神経の軸索における髄鞘の萎縮が考慮された聴神経線維モデルにおいて、髄鞘の直径が2.5μm、2.2μm、1.8μmのときの、2つの連続したパルス状電気刺激に対するスパイク発火応答の基本的な性質が調査され、2つ目のパルス状刺激電流の閾値、及び伝導速度との関係を明らかにした。更に、髄鞘の直径とスパイク発火応答初期化の不規則性に関する時空間的性質についての関係にも一定の理解を得た。 具体的には、閾値については、髄鞘の直径が2.2μmのときには2.5μmに比べて約1.1倍上昇し、1.8μmのときには2.5μmに比べて約2倍上昇し、電気刺激波形のエネルギー消費が顕著に増加することがわかった。一方、伝導速度については、 髄鞘の直径が2.2μmのときには2.5μmに比べて約9割減少し、1.8μmのときには2.5μmに比べて約6割まで減少することがわかった。 また、刺激を2000回繰り返し与えたときのスパイク発火応答初期化の不規則性に関する時空間的性質は、刺激後の潜時と聴神経上のランビエ絞輪の位置の2変量の関数としての3次元度数分布によって特徴づけられ、髄鞘の直径が2.2μmのときは2.5μmに比べて顕著な変化が見出されなかったが、1.8μmのときには空間的にはほとんど変化しないものの、時間的には分布が大幅に狭くなることが分かった。 それゆえ、令和5年度では、令和4年度で見出された知見と同じ様に、髄鞘の萎縮が著しい場合には電気刺激の投与によって音声情報を聴神経に伝えることは容易でないことが示され、髄鞘が穏やかに萎縮した場合には適切に設計された電気刺激波形を投与すれば音声情報をエンコーディングすることが可能となるのではないかとの理解に達した。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は、令和5年度で得られた成果を踏まえて、髄鞘が穏やかに萎縮した場合での聴神経線維モデルにおいて、パルス状電気刺激波形の系列に対するスパイク応答特性を明らかにするための計算機シミュレーションを実施する。また、令和5年度の調査で実施された髄鞘の萎縮が空間的に一様に進行している場合だけでなく、非一様に萎縮が著しく進行している場合についても、スパイク応答特性の調査を促進していく。 具体的には、髄鞘の直径を2.5μmから0.1μm毎に2.0μmまで減少させながら、正弦波によってパルス状刺激波形のパルスレートと振幅の両者を様々な変調度、様々な周波数の正弦波で変調し、聴神経線維モデルに与えた時のスパイク応答を調査する。なお、パルスレートは正弦波の振幅の大きさに従って50Hzから100、200、500、1000Hzまでの範囲で変動させるが、直感的には、正弦波の振幅が小さい時にはパルス状刺激は疎で、大きい時にはパルス状刺激は密となるようなイメージである。そのようなパルス状刺激波形に対する聴神経線維モデルのスパイク列応答の観測から、統計学的、及び情報理論的尺度に基づいて波形の最適条件を見出していく。 髄鞘の萎縮は非一様に進行するとの観点から、現状の聴神経線維モデルでの50個の髄鞘のうち中心部の数個の髄鞘だけが著しく萎縮した場合でのスパイク伝導特性を明らかにし、ひいてはパルス状電気刺激波形の最適条件を見出すための計算機シミュレーションも実施する。それらの知見に基づき、人工内耳装着者に音響情報を最も伝えやすくする電気刺激波形を見出すべく、スパイク列応答が健常者のそれに近づけられるようなパルス状電気刺激波形の特徴を調査していきたい。
|
Causes of Carryover |
令和5年度の国内での学会において参加登録費が不必要となったために齟齬が生じており、令和6年度で適切に有効活用する予定である。
|
Research Products
(8 results)