2022 Fiscal Year Research-status Report
The role of Cyr61 in recovery from diaschisis post-hemorrhage
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22K11338
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
西部 真理子 滋賀医科大学, 医学部, 客員講師 (50638757)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | リハビリテーション / 脳出血 / 運動機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳血管障害による後遺症からの生活の再建・社会復帰を目指すために、運動療法 (リハビリ) が行われているが、その効果は患者が十分に満足できるレベルには達していない。現状では、後遺症からの回復は、症状・段階に大きく依存している。我々はラット脳梗塞モデルでの亜急性期回復期においてリハビリを施す事により、大脳皮質で上肢の動きを制御する領域が再構築され、領域の機能低下がある程度回復し、上肢の動きも改善された事を示した。しかし上肢の運動学的評価は、健常の上肢の動きとは異なり、疾患を伴う上肢側への胴体・頭の傾きを伴った。また神経可塑性による代償が不十分であり、代償によって働く神経領域の再構築機構や神経機能促進の解明を進める事が必要である。 本研究では出血を線条体 (dorsolateral striatum)に作成し、線条体と機能連結する一次運動野での神経構築を運動機能と同時に評価する。出血亜急性期に出血と同側の皮質運動野組織の遺伝子発現の比較を行った。具体的には、非出血群、出血 +自発的回復群、出血+リハビリ群の遺伝子発現解析を用いリハビリ効果因子を調べた。その結果、特に、リハビリテーション群でHSP27, A2m, Id1, Cyr61, Atf3, Klf4, Sbno1, の遺伝子群の上昇が認められた。脳損傷亜急性期に作成した切片の組織解析では、Atf3とCyr 61の顕著な発現が出血同側 (ipsi-injury) の運動野 V/ VI 層ニューロンにみられ、Sbno1発現が出血損傷域を中心に劇的に上昇することが確認された。 これらの結果は、出血後の神経回復機序を示し、特にリハビリ効果を反映するものと考えられる。今後は、Sbno1機能のリハビリ特異的効果とAtf3/ Cyr61 axis 特異的回路の遠隔性機能障害からの回復においての役割を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非出血群、出血 +自発的回復群、出血 +リハビリ群の遺伝子発現を比較しリハビリ効果因子を調べた。脳損傷後のリハビリによる高次運動機能回復効果をRNA sequencingで解析したところ、促進に働く神経可塑性分子として、HSP27, A2m, Id1, Cyr61, Atf3, Klf4が同定された。脳損傷亜急性期特異的な組織解析では、Atf3とCyr 61は共に、出血同側 (ipsi-injury ) で投射領域である運動野V/ VI 層ニューロンと、さらに出血損傷域とで高い発現が確認された (n = 8)。非損傷脳では、この様な発現は確認できなかった (n = 8)。オリゴデンドロサイトマーカーNG2, 内皮細胞マーカーCD31, アストロサイトマーカー GFAP との共染色を行ったが、ニューロン特異的に発現していた。これらの運動野V層ニューロンは出血部位である線条体に投射している事もトレーサーを用い確認した。またSbno1の発現を免疫染色に調べたところ、より出血損傷域を中心に発現が確認された (n = 7)。 これらの分子の発現が、脳損傷モデルに依存するかを検証するために、線条体をコラゲナーゼ処理し血管を溶解により出血を引き起こすモデルと、新しく中大脳動脈を結索して作成する脳梗塞モデルマウスをとりいれた。両モデルでも損傷域と範囲は同程度である事を確認し、それぞれで脳損傷を起こし組織学的に発現解析を行った。その結果、どちらのモデルでも、Sbno1はリハビリ群特異的な上記発現が観察されたが、Atf3/ Cyr 61に関しては、出血モデルでのみリハビリ群特異的に大脳皮質投射ニューロンで観察された。これは、Cyr 61の遠隔性機能障害からの回復に特に寄与するという結論が期待出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
リハビリは慢性時の運動機能回復において脳の可塑性の促進効果をもたらす。しかし、完全な損傷以前の体 (特に手先) の動きの状態に戻すのは困難である。その要因として、中枢神経の再形成 (Neuro-repair) または、新回路形成 の構築(Neural sprouting) が不十分であり、神経可塑性による機能の代償が不完全であると考えられている。代償的に働く神経領域再構築メカニズムの一つを明らかにするため本研究では、脳損傷後の高次運動機能回復の促進に働く神経可塑性に働く因子の同定と、それら因子の機能の組織的解析・行動実験解析を目的としている。 リハビリ特異的に神経での発現を高める分子としてSbno1、 Cyr61、 Atf3遺伝子を特定した。脳損傷亜急性期での組織解析では、Atf3とCyr 61は共に、出血損傷域と、同側の運動野V/ VI 層ニューロンを中心に発現が確認された。Sbno1は免疫染色によりタンパク質レベルでも出血損傷域を中心に高発現が確認された。 これら因子は線条体のコラゲナーゼ処理と、中大脳動脈結索脳のいずれの脳損傷モデルでもリハビリ群で高い発現が観察された。Atf3/ Cyr61 axisは正常時の運動学習ではなく損傷の影響を受けた運動野の投射ニューロンの脳神経修復時に経験依存的な細胞の活動を示している可能性が高い。これまでに、末梢神経損傷ではAtf3発現が確認されている。一方で、Sbno1は大脳皮質神経発達期に重要な因子である事が知られており、Sbno1が出血部位ニューロン修復の際の神経保護に寄与している事が考えられる。今後はリハビリを行っている期間に運動野投射ニューロンの活動をモニターし、遠隔性機能障害からの回復時のこれら遺伝子の寄与を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度はコロナにより渡米できず、計画していた海外学会発表にかかる旅費を使用しなかったため、その分の使用額が低くなった。物品調達も輸入分がコロナにより遅延し、購入予定であった抗体などへの支出が減った。ただし、抗体は譲渡により使用可能であっため、実験計画に遅れはない。次年度使用学は来年度交付決定額と合算し、予定しているChIP sequencing解析を行う。
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