2022 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋肥大時のインターロイキン受容体発現の増加が筋肥大に貢献する可能性について
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22K11471
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
花井 淑晃 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50360730)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | インターロイキン / インターロイキン受容体 / 筋肥大 / 筋収縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、筋肥大時に肥大筋で急激に発現が増加するインターロイキン受容体の発現増加のメカニズムを解明することである。これまで、筋肥大時に肥大筋において発現が増加するインターロイキン受容体mRNAの発現調節に関わるメカニズムは明らかにされていない。我々の研究室では、電気刺激モデルを用いた急性の高強度筋収縮後にインターロイキン受容体mRNA発現の増加を観察したことから、高強度の収縮活動の増加が貢献している可能性を考えた。 今年度は、収縮活動の影響の観点から、代償性肥大時に遠位腱の切除によって筋活動、および発揮張力が低下すると考えられる腓腹筋において、インターロイキン受容体のmRNA発現がどのように変化するかについて検討を行った。また、腓腹筋を主として速筋線維よりなる表層部と、50%程度遅筋線維が含まれる深層部とで分けて分析することにより、同一筋内での動員様式の違いの影響についても検討を行った。 得られた結果は、当初の想定とはことなり、腱切除を行った腓腹筋においては、深層部、表層部の両方で腱切除2日後にIL-6およびIL-10の受容体mRNA発現の有意な増加がみられた。また、表層部と深層部の比較では、深層部においてより顕著な増加であった。これらの結果は、1.筋の動員(収縮活動)の増加がインターロイキン受容体の発現を増加させる単一の要因ではないこと、2.同一筋内においても、部位の違いによって処置の影響が異なること、を示している。 今後は同一筋内でも発現調節の違いが、急性の筋収縮活動時の変化でも同様であるのか確認することと、また、インターロイキン受容体発現に影響をあたえる可能性のある、下垂体ホルモンの影響について検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、筋肥大時のインターロイキン受容体の発現増加のメカニズムを解明するための方策として、代償性肥大時に腱切除によって活動が低下し、萎縮が生じる腓腹筋を用いて、筋活動低下時のインターロイキン受容体の発現の変化を検討した。 我々の研究室では、電気刺激モデルを用いた急性の検討においてインターロイキン受容体mRNA発現の増加を観察していたことから、代償性肥大時の肥大筋で生じるインターロイキン受容体の発現の増加に高強度の収縮活動の増加が貢献していると考えていたためである。また、腓腹筋では、部位によって筋線維組成や収縮の動員がことなり、表層部では主として速筋線維のみよりなるが、深層部では、遅筋線維と速筋線維の割合が50%程度である。これらの部位ごとにサンプルを採取して比較することにより、1.腱の切除により収縮活動の低下(発揮張力の低下)と筋萎縮による変化、2.同一筋内での動員の影響について検討することとした。 得られた結果は、当初の想定とはことなり、腱切除を行った腓腹筋においては、深層部、表層部の両方で腱切除2日後にIL-6およびIL-10の受容体mRNA発現の増加がみられた。また、表層部と深層部の比較では、遅筋線維比率の大きい深層部において、より顕著な増加であった。これらの結果は、1.筋の動員(収縮活動)がインターロイキン受容体の発現を増加させる単一の要因ではないこと、2.同一筋内においても、部位の違いによって、腱切除の影響が異なること、を示している。 腱切除を行った筋で増加が見られたのは、おそらく、組織損傷にともなう、炎症反応とその後の再生過程の開始に関わり反応が影響しているものと考えられる。また、有意義な成果として、同一筋内でもインターロイキン受容体mRNA発現の変化の違いが観察された。この結果は急性の筋収縮でも同様に生じるのか検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の検討において、同一筋内でもインターロイキン受容体mRNAの発現増加の反応は部位によって異なることが示された。部位による反応の違いについては、高強度の筋収縮処置では検討を行っていないことから、次年度は、電気刺激による急性の筋収縮モデルを用いて、腓腹筋の表層部、深層部で今回観察されたような変化の違いが生じるのか確認する必要がある。また、急性の筋収縮モデルでは、処置直後、および6時間後のサンプルしか分析を行っておらず、また、収縮強度も単一強度のため、収縮処置後24時間までのタイムコースの変化と、収縮強度、あるいは収縮様式(アイソメトリック、コンセントリック、エキセントリック)による違い等について検討を行い、発現の変化への影響の有無を明らかにした上で、最も顕著な変化のモデルを用いてシグナリングの経路分析を実施したいと考えている。 また、筋肥大時のインターロイキン受容体mRNA発現の調節に関わる可能性のある因子として、下垂体ホルモンの影響が考えられる。特に、急性、慢性のストレス反応に関与する下垂体由来のACTHにより調節される副腎由来のグルココルチコイドは白血球の組織へのリクルートメントにも関与することが報告されていることから、白血球、マクロファージ等の筋組織へのリクルートメントの調節を介してインターロイキン受容体mRNA発現の変化への影響が考えられる。 ゆえに、次年度は、下垂体ホルモンの有無の影響を検討するために、外科的に下垂体の摘除を処置したラットを用いて片脚の代償性肥大を処置し、インターロイキン受容体mRNA発現の肥大筋における変化を正常ラットにおける変化と比較することによって、下垂体由来のホルモンの影響について検討を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は実験を一つしか実施しなかったために、分析を実施したサンプル数が少なかったことから、実験動物の購入費とサンプル処理に関わる物品費について次年度への繰越が生じた。また、実験開始年度なので、成果が出ておらず、学会発表を行わなかったことから、旅費の支出がなかった。 次年度については、予備実験を含めてあらたな動物実験を複数計画しており、被験動物の購入費、サンプルの処理(RNA抽出)とmRNA発現の解析のための分析試薬の費用に今年度以上の支出を予定している。また、得られた成果については国内学会で発表を行う予定のため、大会参加費と旅費について支出の予定である。さらに、投稿論文としてまとめることのできるデータが得られた場合には、論文の校正、および投稿費について、支出の可能性がある。
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