2023 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋肥大時のインターロイキン受容体発現の増加が筋肥大に貢献する可能性について
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22K11471
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
花井 淑晃 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50360730)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | インターロイキン / インターロイキン受容体 / 筋肥大 / 下垂体摘除 / 下垂体ホルモン |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、ラットの代償性肥大モデルを用いて、特に、筋肥大初期(肥大処置後4日まで)の時点で、筋肥大に関与するとされている、いくつかのインターロイキン(IL-4、IL-6、IL-10、IL-13)受容体の遺伝子発現が著しく増加することを見出し、また、これらの遺伝子発現の増加は、急性の高強度筋収縮刺激においても観察されることを発見した。 現段階では、これらのインターロイキン受容体の急性の発現増加が、種々のインターロイキンリガンドに対する組織の反応性の増加を介して筋肥大に関与しているかどうか、また、受容体遺伝子発現の増加がどのようなメカニズムにより生じているのかについては不明である。 今年度の研究では、筋肥大初期のインターロイキン受容体遺伝子発現の増加のメカニズムの一部を解明するために、白血球の組織への浸潤にも関与するとされる、下垂体ホルモンの関与について検討を行った。 正常ラット、および下垂体摘除ラットを対象として片足の腓腹筋の腱を切除し、ヒラメ筋、および足底筋に対して代償性肥大を惹起した。処置の2日後、および4日後に筋をサンプリングし、インターロイキン受容体のmRNA発現レベルをqRT-PCR法により丁重した。 インターロイキン受容体の筋肥大時の発現増加は、正常ラットと下垂体摘除ラットではほとんど変化はなく、下垂体由来のホルモン分泌はインターロイキン受容体遺伝子発現の筋肥大初期の増加にたいして、影響がないようであった。唯一、IL-10受容体mRNAのみが成長ラットの増加に対して、下垂体摘除ラットでは有意に大きな増加がみられ、また同時に、M1マクロファージのマーカーであるCD68mRNAにおいても、どうように正常ラットにたいして下垂体摘除ラットで増加が大きい傾向があった。IL-10受容体の増加はM1マクロファージの増加と関連すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、筋肥大初期に生じるインターロイキン受容体mRNA発現の増加の分子メカニズムの解明を主目的として研究をすすめている。 今年度は、筋肥大時の局所的な損傷、および炎症反応とその回復過程に大きな役割をもつ、白血球の組織への浸潤の調節に関わる因子として、下垂体ホルモン(特に、ACTH-グルココルチコイド)を想定し、下垂体除去モデルを用いることにより、筋肥大初期のインターロイキン受容体mRNAの増加に対する下垂体ホルモンの貢献の有無について検討を行った。 結果は部分的にではあるが、下垂体、あるいは下垂体ホルモンの貢献を支持する結果となり、研究目的である、筋肥大初期にインターロイキン受容体の遺伝子発現を増加させる分子メカニズムの解明に対して、一部、貢献する成果を得られたと考える。 しかしながら、下垂体の外科的摘除という相当に大きな変化を伴う処置を施しているにもかかわらず、有意な変化が認められたのはインターロイキン10受容体のmRNAのみであり(下垂体摘除動物で変化が増強)、他のインターロイキン受容体では正常ラットの反応と下垂体摘除ラットでの反応に有意な違いは認められなかった。本研究の結果として、下垂体摘除の影響が強く観察された場合には、下垂体ホルモンのリプレイス処置等の実験を実施するなどして、さらに詳しい分子メカニズムについて検討を行う予定であったが、全体的には下垂体摘除の効果はマイナーなレベルにとどまっていることから、それ以上の検討を実施することは行わなかった。筋肥大初期のインターロイキン受容体mRNA発現の急性の増加に対しては、おそらくは下垂体ホルモンのような全身性の因子ではなく、肥大筋内、あるいはその周囲の組織で生じる局所的な変化が貢献しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果により、筋肥大初期の肥大筋におけるインターロイキン受容体mRNA発現の急性の増加には、下垂体ホルモンのような全身性の因子によっては強く調節されておらず、おそらくは筋局所で生じている何らかの変化を契機としている可能性が示唆された。 今後の研究推進の方策としては、ラット個体に対する代償性肥大処置よりも、簡便で再現性のよい、電気刺激による高強度の筋収縮モデルを用いて、インターロイキン受容体mRNA発現の調節メカニズムを解明していきたいと考える。 代償性肥大では、腱切除の影響が個体間でばらつきやすく、メカニズム解明のために再現性よく実験処置を行うには、電気刺激による高強度筋収縮モデルの方が適していると考えられる。我々の現在のデータは、刺激後、6時間の時点のみのデータであり、また、刺激強度も単一の刺激しか課していない(30V、100Hz、3sec x 10を5セット)。被験動物にもラットを用いているため、今後のメカニズム解明のために遺伝子ノックアウトモデルを使用する必要がある場合には不利となる。 よって、今後の方策として、マウスの電気刺激モデルを確立することとする。電気刺激の刺激強度および刺激後のサンプリングタイムを変化させて、インターロイキン受容体mRNA発現の増加の最大刺激となる強度および時間を同定する。そのうえで、電気刺激時に、種々の細胞内のシグナリング経路の抑制剤を事前投与して収縮刺激を行うことにより、インターロイキン受容体mRNA発現の増加につながる細胞内シグナリング経路を同定していく。想定している経路は、カルシウムシグナルの経路(カルモデュリン、カルシニューリン等)、および、タンパク合成の経路(AKT-mTOR)、あるいは、MAPKやAMPKなどのキナーゼカスケードである。
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Causes of Carryover |
当初、予定していた、下垂体摘除モデルでの変化で効果があった場合の各下垂体ホルモンのリプレイス実験を実施していないことから予算に余剰が生じている。 また、当初予定していた、学会発表、および投稿論文の作成を実施していないため、学会発表に関わる参加費や旅費の支出、および投稿論文の作成に関わる校正費用や投稿費用などの支出を行っていないことから予算に余剰が生じている。 今年度は、さらにマウスの新規実験を開始することと、また、これまでの結果と合わせた国内学会での発表、および英語論文の作成と投稿で費用を支出計画である。
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