2022 Fiscal Year Research-status Report
Attempt to elucidate properties of the action space generatiing goal-directed movements
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22K11654
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久代 恵介 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60361599)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 真史 日本福祉大学, スポーツ科学部, 准教授 (40736526)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 運動 / 認知 / 感覚 / 空間 / 行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトは複雑で繊細な運動を、目的に応じて効率的かつ省エネで出力することができる。このとき中枢は、眼や耳から入った環境情報や自己の運動能力を加味し、求められる条件・状況に応じた最適な運動を生成していると考えられる。我々は、環境情報をもとに運動が生成される過程において認知的空間が表象され、その最終段階においては運動行動に直接的に関わる「行動空間」が形成されると想定した。「行動空間」は高次な身体運動の生成に必要となる多くの情報を内包し、運動生成時に参照される認知空間であると想定する。洗練されたヒト運動現象の背後に潜在する「行動空間」の機能的性質を解明することが本研究プロジェクトの目的である。 プロジェクト初年度(2022年度)は2件の実験研究を行った。1件目の実験では、身体前方の近傍空間において様々な方向、距離、大きさの標的に対する上肢到達運動の時間的性質を調べた。その結果、運動に要する時間は距離と方向に影響されやすいが、物体の大きさにはあまり影響されなかった。このことから、行為者と操作対象物との空間的関係性が行為の難易性に強く影響することが示唆された。2件目の研究では、身体周辺の様々な点への上肢到達運動の時間的性質を調べた。身体周辺の標的への到達運動(運動課題)、到達運動をイメージした指上げ課題(イメージ課題)、標的呈示中に到達できたかどうかを答える課題(判断課題)の3課題における運動遂行時間を比較した。その結果、課題遂行時間はイメージ課題において最も長く、判断課題において最も短かった。このことは、上肢を用いた運動行為において、実際の運動とその認知が乖離していることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトでは、ヒト運動行動において中枢で想起される「行動空間」の機能的性質の解明をめざす。その実現のため、3つの課題を設定しプロジェクトを推進している。 課題1)身体運動の性質が「行動空間」の形成に及ぼす影響を調べる。課題2) 行為対象の性質が「行動空間」の形成に及ぼす影響を調べる。課題3)環境と状況が「行動空間」の形成に及ぼす影響を調べる。 当該年度は、課題1と課題2に関連するヒト行動実験を行った。前者では、身体近傍空間に対する上肢運動の時空間的性質を調べた。実験では、身体前方の5方向、3距離に存在する3種類の大きさの標的に対して、「できるだけ速く正確に」到達運動を行わせた。その結果、運動時間は右前方で短く、左前方で長い結果が得られた。他方、運動時間は事前の予想通り距離に依存して変化したが、標的の大きさによる影響をあまり受けなかった。これらの結果は、Fitts(1954)が提唱した速度と正確性のトレードオフを示す式において、運動時間は方向と距離に依拠し標的の大きさには影響されにくい性質の潜在を示す。現在、これらの研究成果を学術誌に掲載すべく投稿準備を行っている。また後者では、身体近傍空間に対する上肢到達運動課題、運動をイメージした指上げ課題、標的呈示時間内に到達可能であったかを報告する判断課題における課題遂行時間を比較・検討した。その結果、課題間で課題遂行時間が大きく異なり、運動イメージ課題で最も長く、判断課題で最も短かった。さらに、実際に到達運動を行った場合にのみ運動方向に依存した課題遂行時間の違いが見られた。これらの結果は、ヒトが上肢を用いて身体周辺に運動行為をなす際、実際の運動と認知的に表象される運動の間には時空間的性質の乖離が生じていることを示唆する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2023年度)は当該研究プロジェクトの中間年に該当する。本年度は前年度に引き続きヒト行動実験の実施を中心としたプロジェクトの推進を計画している。 前年度は当該プロジェクトにおける3課題のうち2課題に関連する実験研究に取り組んだ。本年度も継続的にそれらに取り組むとともに、残された課題に関わる実験研究を行う予定である。対象となる課題3では、環境と状況が「行動空間」の形成に及ぼす影響を調べる。現在計画中の研究では、前年度実施の水平面内における運動行動を空間へと拡張し、垂直成分を加味した身体周辺領域への運動行為とその主観的見積もりを定量したいと考える。我々が居住する重力空間においては、水平を構成する2軸と鉛直軸とでは重力の影響が異なる。鉛直方向を想定することにより身体運動制御の難易性は一気に上昇するため、水平面内で得られた運動行動の機能的性質(速さ、正確性など)から鉛直成分を加えた空間内でのそれを予測することは困難である。当該年度はこれらの点に着目した実験の計画、準備、実施、および解析を行う。当該年度の活動を通して、ヒト運動行動の機能的性質と、その認知的表象である「行動空間」の性質の理解を深めたいと考える。
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Causes of Carryover |
実験に要する費用(実験装置作製、実験参加者謝礼等)に若干の変更があったため。
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Research Products
(2 results)