2023 Fiscal Year Research-status Report
大日本帝国剣道形制定に至る剣術思想に関する身体運動文化論研究:渡邊昇に着目して
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22K11680
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
田端 真弓 長崎大学, 教育学部, 准教授 (60648608)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 武者修行 / 大日本武徳会剣術形 / 修行記録 / 堀田捨次郎 / 真剣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、5年間の研究期間のうちの2年目にあたる。当初の計画では、1~3年目の3年間のうちで、2つの課題に取り組むことを挙げていた。1つ目が先行研究における武徳会の性格を読み取ることと武徳会関係の資料を整理することである。そして、2つ目は、本研究の主たる人物である渡邊昇(以下昇とする)に関する剣術思想を検討することである。 このような研究過程のなかで、昇の高弟として堀田捨次郎という近代の剣術家・剣道家が存在していたことが明らかになった。堀田による著書のうち、『剣道極意』(大正7年)(以下『極意』とする)に、昇に随行した修行の記録が収められていた。その発行年と内容は、本研究課題を進める上で欠かせない課題の一つになると判断した。そこで、研究計画に若干の修正を加え、昇と堀田の関係や彼らの経歴、修行訪問地や経路、堀田からみた昇の剣術師範としての人物像について検討することとした。 その結果、①堀田は近代に剣術・剣道関係の著書を多く残していること、②そのうち『極意』によれば、堀田が明治32年に昇の修行に随行して全国を廻ったとみられること、③堀田は昇の大日本武徳会を中心とする社会的役割や幕末期剣術家としての剣術経験について一定の理解をしていること、④堀田は昇が経験した幕末期の真剣の考え方を、近代における自らの稽古に重ね合わせて考えていること、⑤堀田は昇による剣術指南を回想し、それ以降の師弟関係のあり方について批判的な眼で捉えていることが明らかになった。これらのことを、昇から堀田への身体運動文化継承の一様相として発表した。この研究の成果を改めて整理したところ、大日本武徳会の普及・拡張活動と昇の修行との関係性、大日本帝国剣道形及び社会状況と昇の経歴を詳しく検討していくことが次に取り組むべき課題であり、その課題が武徳会の性格とも大きく関わっているという全体像を見据えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で示したように、2つの課題のうち、1点目については、一定程度進めることができた。2点目については、本来、昇が中心となる資料でもって検討を進めるという計画であったが、堀田が書き残した資料を扱うことで昇の思想が明確になると判断して、研究計画に若干の修正を加えた。修正をしたことで昇そのものの剣術思想の検討は遅れていると考えられる。しかし、昇と堀田の師弟関係を身体運動文化継承の一様相として捉えることで、着目すべき新たな課題が生じた。そのことで、昇の剣術思想は深化していくであろうという見通しを持つことができた。全体を踏まえて、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
申請書提出から本年度までは、身体運動文化の継承に関する内容と昇の剣術思想に関する内容がまとまりを有する一つの研究構想のなかにあったが、本年度の研究成果から、この2点を切り分けて考えていく必要があるという研究推進上の結論に至った。そこで、昇の剣術思想の検討することを、今後の優先的な課題としていくことを考えている。その際、「研究実績の概要」で挙げた大日本武徳会の普及・拡張活動と昇の修行との関係性、大日本帝国剣道形及び社会状況と昇の経歴に着目することが要点になると考えられる。先行研究の検討を精緻化させるとともに、緻密な史(資)料分析を実施したい。上記に重点を置きつつ、1~2年目までに進めてきた史(資)料整理作業を継続して進める。また、身体運動文化の継承についての研究課題は、今後も史料収集に努めることで、昇の剣術思想研究とは分離させて、独立した研究内容として成立させられるように進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
研究資料の整理と分析に時間を要し、本年度中に研究調査に出向くことができなかったために次年度使用額が生じた。次年度、調査を実施する予定である。
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