2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K11858
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
牛島 弘雅 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (90509043)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞老化 / 抗酸化活性 / necrostatin / necroptosis / ラジカル除去活性 / RNAシーケンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、抗酸化作用を有する医薬品を用いて、老化細胞が正常(若い)細胞のような増殖機能を回復する医薬品をスクリーニングし、増殖能回復現象を分子生物学的手法により分析し、その分子機構に与る因子を明らかにすることを目指す。本研究は、「老化から正常細胞への機能回復」という観点から、加齢性疾患を克服する治療法を提供しうる研究である。これまでの予備検討により、抗酸化作用を有するイデベノン等の薬物にそのような作用があることを見出している。 本年度は、抗酸化作用を有する新たな候補化合物として見出したnecrostatin(nec)誘導体に関して、そのラジカル除去能力の構造活性相関などの化学的諸性質を解析した。また、ヒト老化細胞の細胞増殖に与える影響に関しても、並行して検討を行った。 necrostatin誘導体は、制御された細胞死の1つ形態であるnecroptosisを抑制する働きを有する化合物として知られており、その誘導体の1つであるNec-1sは、マウスの発毛促進作用があることも報告されている。これらnecrostatin誘導体の細胞死抑制作用は、その標的酵素であるRIPキナーゼの阻害作用によってRIPキナーゼの下流の細胞死シグナルが減衰すること考えられてきた。その作用に加え、Nec-1及びNec-1iの2つの化合物はスーパーオキシドアニオン(活性酸素種の1つであり、細胞内での酸化ストレスの一因)に対するラジカル除去能を有することが確認できた。この抗酸化作用によってラジカルを直接的に除去することが、細胞死の抑制に寄与していると考えられる。また、ヒト老化細胞の細胞増殖能に対しては、イデベノンと同程度の増殖促進作用を示すことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度より継続して行っていた化合物スクリーニングによってNecrostatinを始めとする新たな抗酸化作用を有する化合物をピックアップすることができたため、それら化合物の抗酸化能を評価する実験及び解析する時間が追加で必要となった。老化細胞を使った細胞生物学的な検討を並行して実験しているので、そちらに費やす解析時間が減っていることも要因のひとつである。
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Strategy for Future Research Activity |
異なる濃度の薬剤作を用させたIMR90及びIMR90-SCからtotal RNAを抽出し、RNAシーケンシング(RNA-seq)用のライブラリーをすでに調製済みである。コントロール群(薬剤未処理)の細胞から抽出したRNAについても同様に調製し、RNA-seqを実行する。それらの結果を比較し、シーケンシングデータを解析する。シーケンシングデータの解析は、トリミングやゲノムへのマッピング、リードカウントデータの作成等を行う。RNA発現変動量の比較解析(DEGs: differentially expressed genes 解析)は、既存の統合解析環境を使用する(TCC-GUI,iDEP)。 正常細胞及び老化細胞のシーケンスデータを比較し、薬剤処理群の老化細胞に特異的に発現変動が見られるシーケンスデータを集積する。細胞増殖能に関して既報があるものは優先して調査し、DEGsの結果に由来するタンパク質間の相互作用の予測にはデータベース:STRING database(https://string-db.org/) を使用する。 次年度は研究計画の最終年度であり、リストアップされた遺伝子の発現系及びノックダウン系の構築・解析を最優先の課題と設定したい。老化細胞: IMR90-SCの他、比較対象の細胞としてiPS細胞も使用予定である。細胞増殖回復シグナルが普遍性をもつか否かについては、老化した臓器・組織の対象を広げて検討したい。
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Causes of Carryover |
前年度の研究進捗状況の遅れから、当初参加予定であった国際学会(米国, CellBio2023)における研究成果発表を見合わせたため、次年度使用額が生じた。この次年度使用額の用途は変更せず、次年度の国際学会(豪州,BMH2024)での参加経費に充てる予定である。また、次年度の実験計画に合うように逐次進捗状況を見直し、交付額の適切な使用に努める。
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