2022 Fiscal Year Research-status Report
FTMプロトコルの応用による同時測位可能端末数に制限のない測位システムの研究
Project/Area Number |
22K12006
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
藤井 雅弘 宇都宮大学, 工学部, 准教授 (20366446)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Fine Timing Measurement / 無線LAN / 測位 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,無線LANのフレームの送受信時刻に基づいて送受信端末間距離を測距可能なFTM (Fine Timing Measurement) プロトコルによる,同時測位可能な端末数に制限のない測位システムについて研究を行う.FTMプロトコルに従い複数のAccess Point (AP) との間で測距を行った端末において測位が可能であるが,複数の端末は同時に測距できないため,端末数の増加にともない全端末の測位に必要な時間が増加してしまう.そこで,本提案手法では,AP間でFTMプロトコルを運用し,端末はそのフレームを観測するだけで,端末とAP間の測距が可能な方式を検討する. 無線LAN端末のように安価な端末では,GPS (Global Positioning System)の衛星と異なり,高精度に時計同期を行うことができない.すなわち,各端末の時計の指し示す時刻は,原則異なっていることを前提にする必要がある.無線信号を用いた測距はフレームの送受信にかかる時間に光速を乗じることで距離を算出可能であるが,これは送受信機間で時計同期がとれていることが前提となる.しかし,通常,端末の時計は真の時刻に対してバイアス的なずれが発生している.その他にも,時刻の計測には計測の誤差が発生し,また,時刻を表現するためのデータ形式の容量も制限されるため,量子化誤差もともなう.このような背景のもと,今年度においては,FTMにおける計測時刻モデルの設計を行い,数値計算シミュレーションを用いて定量的な評価を行った.FTMにおいて,各端末で異なるバイアス誤差は,短い期間での変動が十分小さいと仮定できる場合に相殺され,時計のバイアス誤差の考慮が不要な測位手法の発展につなげられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,無線LANにおける標準規格で採用されているFTMの仕様を詳細に調査し,FTMのプロトコルにおけるフレームに記載されるデータ形式,特に時刻計測の時間分解能に基づく量子化誤差成分の見積もりを詳細に行い,また,計測誤差の送受信機間の距離基づく可変分散モデルを導入することにより,より精度の高い,時間計測の数理モデルを確立して,数値計算実験を通じてその評価を行っており,次年度以降の研究の発展のための基礎が十分に固められた.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究において,無線LANの標準規格に基づく時計計測の詳細な数理モデルの確立が完了したので,これに基づき,同時測位端末数に制限のない測位システムの検証に進む予定である.従来のFTMでは,3次元空間上での測位のためは,3局以上のAPとFTMで接続する必要がある.無線LANでは,原則的に,同時に送信できる端末は1局のみであるので,従来のFTMに基づく測距の場合,測位端末数倍の計測時間が必要となり,この数が多くなると,サービスがタイムアウトする可能性がある.これは,様々なデバイスが無線接続で位置を計測することを前提とするIoTサービスにとって致命的な欠陥となる.そこで,本研究課題では,この問題を根本的に解決するために,端末はAP間のFTMプロトコルに基づく信号の送受信をただ観測しているだけで測位が可能なアルゴリズムを開発する.端末はすべて対等にAPの信号を観測できるので,原理的に測位可能な端末数に制限がなくなる.さらに,端末は通常,バッテリ等で駆動して電力制限下にあるので,自身で信号を送信しないことは,省電力化にもつながる.次年度では,無制限同時測位可能アルゴリズムを開発し,まず,数値計算実験によってその性能評価を行う.この数値計算実験の結果をアルゴリズムの改善に反映し,測位精度の向上を目指す. さらに,現在入手可能な無線LAN機器でFTMに対応している機器を用いて,仮想的に実装実験を行う予定である.本提案手法では端末は,AP間のFTMプロトコルのやり取りを計測し,その際の観測時刻を打刻する必要がある.これは原理的に,通常のFTMの機能で達成できるが,実機では実装されていないため,実機計測値と数値計算実験値を組み合わせて,仮想的に提案手法のプロトコルを実装し,評価を行う予定である.
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Causes of Carryover |
2022年度末に参加した学会の出張旅費の計上額と実費額の間で差が生じ,次年度使用額として348円が発生した. 2022年度に生じた次年度使用額は,2023年度の本来の使途である旅費として計上する予定である.
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