2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K12220
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
長 篤志 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (90294652)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 多義図形 / 知覚交代 / 確率共鳴現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,複数の解釈が存在する基本的な対象として多義図形に着目する.課題の目的は,図形の「見え」が複数存在するときに,提示図形は変化させなくても,いずれかの「見え」への収束を促したり,逆に別の「見え」への変化を促したりすることを可能とする外部刺激(ノイズ)に関する法則性を明らかにすることである. 2022年度には,ネッカーキューブとルビンの壺における「見え」の知覚継続時間が外部ノイズ刺激によって変化するかどうかを明らかにすることを目的とした実験をおこなった.ノイズは先行研究に則り固視微動を模して作成した.5名の実験参加者に対し予備実験で最適なノイズレベルを測定したのち,ノイズを付加した刺激と付加していない刺激を3分間,4回ずつ呈示した. 実験の結果,ネッカーキューブでは平均知覚継続時間において5名中4名でノイズの有無による有意差が見られた.ルビンの壺では5名中3名でノイズの有無による有意差が見られた. 知覚継続時間の分布を観測した結果,5名中4名の分布はガンマ分布に近く,残り1名はガウス分布に近くなった.ガンマ分布に近かった4名から得られた知覚継続時間分布に対し,最小二乗法を用いてガンマ分布の速度パラメータを求めた.ネッカーキューブでは,ノイズの付加によりすべての参加者で速度パラメータの値が増加していたのに対し,ルビンの壺では,速度パラメータの増加と減少に個人差が見られた.また,多義図形によってその見えに直接効果を与えるノイズの種類が異なることが考えられた. 本研究では適切なノイズ刺激を多義図形に付加することによって,知覚交代が促されたり,安定化させたりする確率共鳴的な振る舞いをすることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では,対象とする多義図形としてネッカーキューブのみを計画していたが,年度内にネッカーキューブとルビンの壺の2種類を対象に実験を実施することができた.これによって,ノイズの付加が多義図形における見えの継続時間において影響を与えることが明らかになっただけでなく,ノイズによって見えを不安定にさせる影響と安定にさせる影響があることが示唆された.また,多義図形の種類によって適切なノイズの付加方法が異なることも示唆された.これらは,当初の予定を上回る成果であった. 一方で,得られた継続時間分布の精度が高いとは言えず,当初の予定であった見えの切り替えモデルの構築はできなかった. これらの理由により,本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度において,ネッカーキューブに対しては,2022年度に実施した実験の形式を踏襲して実験データを追加する.これにより,ネッカーキューブの見えの交代現象を確率共鳴現象の一つとしてあらわすモデル化を実現することを予定している.次に,2022年度の研究において多義図形によって適切なノイズの付加方法が異なることが示唆されたため,固視微動を模したノイズでは無いノイズ刺激の作成を実施する.そして,この新しいノイズ刺激を用いてネッカーキューブでない多義図形における見えの継続時間を計測する実験を実施する.これによって,ネッカーキューブ以外の多義図形においても見えの交代現象のモデル化を予定している.
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Causes of Carryover |
当初の予定では,2022年度にアイマークレコーダを購入する予定であったが,購入を2023年度に実施することにしたため,予算の繰り越しが発生した.また,予定していた謝金が必要なくなったため謝金においても予算の繰越しが発生した.2023年度は,繰り越した資金によりアイマークレコーダを購入する予定である.
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