2022 Fiscal Year Research-status Report
分子シミュレーションと実験自動化による大規模DNA構造体設計手法の開発
Project/Area Number |
22K12255
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川又 生吹 東北大学, 工学研究科, 助教 (30733977)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | DNAナノテクノロジー / DNAオリガミ / DNAタイル / 組み合わせ最適化 / 配列設計 / 分子ロボティクス / トラス型構造体 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNA分子を材料として、微細で精密な形状を持った人工物を自己集合により作製する技術が近年発展している。しかしながら、単一の構造として作製可能な分子の大きさは、せいぜい100ナノメートル(nm)程度である。この制約が生まれる要因は、材料として必要なDNAを、物理的・経済的観点から、ある一定量以上準備できないことにある。 本研究では、従来法と比べて100倍以上安価かつ大量にDNAを合成可能な「オリゴプール法」に注目し、大規模なDNAの人工物を作製する新規手法を提案する。要素技術として、DNAの分子構造に基づいた幾何学設計、組み合わせ最適化を用いた配列設計手法、観察直前に夾雑物の除去する技術の開発、粗視化分子動力学シミュレーションを用いた安定性解析などが必要になる。これらの手法を組み合わせることで、従来の試行錯誤による手法とは異なる合理的な設計方法を開発する。 具体的には、シミュレーションによって剛直性が担保されたトラス構造体を、複数のモジュールを結合させて設計する。各モジュールは8本のDNA材料が結合した幾何学的に矛盾のない構造であり、各DNAには熱力学的に直交性が担保された塩基配列を割り当てる。構造を原子間力顕微鏡により観察する際には、夾雑物を洗い流す精製手法を用いる。 これまでの研究により、個別の技術開発に成功し、その一部を論文として報告することに成功した。さらに、複数の技術を組み合わせ、大規模なDNA構造体を実験的に作製することに挑戦し、一定の成果を得ることができた。特に空隙をパターニングされた一辺200nm程度のDNA構造体の観察に成功し、既存のDNAオリガミ法に比べ、約10倍のスケールアップが可能であることが分かった。今後は、さらに10倍のスケールアップを目指し研究を進める予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トラス格子を用いたDNA構造体の設計手法を新規に提案した。具体的にはDNA分子8本で1つのモジュールを作り、大量のモジュールを組みわせることで大規模な構造体を組み立てる。 モジュール間が結合する際に、幾何学的に矛盾が起こらないようDNAの分子構造に基づいて精密設計を行った。大量のDNA分子の結合関係については、組み合わせ最適化手法を用いて設計された塩基情報を用いる。さらに、粗視化分子動力学シミュレーションを用いることで、提案のトラス構造と従来のDNAオリガミ構造の安定性の比較を行い、本研究手法の有用性を示した。 以上の技術を用いて、様々なスケールのDNA構造体を作製・観察した。まず、既存のDNAオリガミ法と同程度の大きさを持つ、一辺60nm程度の構造体をDNA200本程度から作製した。本実験により、構造作製に最適な条件、例えばDNAの濃度や陽イオンの濃度などを決定した。その後、既存の技術より大きい一辺200nm程度の構造体をDNA2000本程度から作製することに挑戦した。サーマルアニーリングの時間の検討や、分子の精製手法を確立することで、設計した通りの構造体の観察に成功した。ここでは提案手法の拡張性を示すために、ナノメートル解像度で空隙パターンを形成した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果に基づき、今後は既存のDNA構造体の大きさを凌駕する一辺500nmを超える構造体を設計する。設計時にはナノメートル解像度のパターニングを複数個所に行い、本技術の有用性が一目で分かるような形状にする。 材料として使用するDNAは約20000本使用する予定である。しかしながら必要なDNAの数が大きくなるため、合成業者に発注して得られる材料の総量が限られたものになる見込みである。提供される材料の量と一度の実験に使用する量とのバランスから、実験計画を綿密に考え観察を行う。実験の計画では、申請段階で検討していた実験自動化手法も取り入れる。 また、熱力学的に最安定な構造を形成できることを担保するために、サーマルアニーリングの時間や温度のさらなる検討を行う。さらに、観察時に構造体が多層化する懸念があるため、既存の精製方法に加え、観察時に不要な分子を除去するウォッシュ法を導入し、観察の成功率を上昇させる。 上記の実験研究に加え、理論研究として粗視化分子動力学シミュレーションを用いて提案手法の有効性を評価する。昨年度に行った安定性の評価に加え、平面性や空間効率などを評価対象に加える予定である。
|
Causes of Carryover |
研究手法の詳細な検討の結果、スケールの大きなDNA分子構造体の全原子分子動力学シミュレーションは現実的に不可能であることが分かり、粗視化分子動力学シミュレーションが適していることが示唆された。さらに予備的な粗視化分子動力学シミュレーション実験により、研究室が所有している既存の計算機が十分な能力を有していることが判明した。 また、大規模なDNA構造体を作製するにあたり、材料となるDNA分子をDNA合成業者から購入する必要がある。DNA一本当たりの単価は安価なものの、20000本に及ぶ大量のDNAを購入するには単年度の予算では不足することが判明した。 これらの理由により、2022年度に購入予定だった計算資源は不要となり、予算を次年度以降に繰り越すことでDNAを購入することを決定した。
|
Research Products
(11 results)