2023 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質構造ダイナミクスの解析のための階層線形モデルの枠組みでの共分散推定
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22K12264
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
網崎 孝志 鳥取大学, 医学部, 教授 (20231996)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 変量効果モデル / 構造重ね合わせ |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質の働きは、その構造の変動(異質性やダイナミクス)に結びついている。本研究では、そこに見られる階層性に着目している。すなわち、構造の集団内での違い(集団内変動)と集団間での違い(集団間変動)である。これらを区別するために、変量効果モデルにより表現する方法(REM法)と、母数効果モデル(固定効果モデル)で表現する最小二乗法の二段階(TS)法を開発し、それらの適用対象・方法の開拓や方法論の改良を行っている。 2023年度は、これらの手法の特性を調べるために、クラスAβラクタマーゼ(ABL)に属する酵素群のPDB登録結晶構造データの解析に利用した。ABLは、抗菌薬耐性により、ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)、非ESBL、カルバペネマーゼに分類されるが、この分類により、β9-α12ループとΩループの位置関係が異なること(Ωループは薬剤耐性に関係していると考えられている)、また、共分散行列の第1、第2主成分により、分類を表すことができることを示した。この点について、REM法とTS法はほぼ同じ結果が得られた。 また、二手法はデカルト座標空間上での構造重ね合わせ法であるが、階層性を考慮している点に新規がある。一般に、構造重ね合わせは大きな構造変化を来した構造群への適用は難しいが、PDBに登録されたカルモジュリン(CaM)の結晶構造及びNMR構造について、ダイナミクスの解析を行った結果、両手法の異分散性が有効に働き、NドメインとCドメインの間の大きな構造変化をとらえることができた。また、重ね合わせの対象の選び方により、REM法とTS法の結果に違いが生じる場合があることが明らかになり、REM法は構造データの全体を考慮して重ね合わせが行える有用な手法であることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の目的は、開発した二手法の特性を明らかにして適用対象・方法を開拓し、さらに方法論に改良を加えることである。適用の開拓については期待通りの成果が得られているが、方法論的改良のうち、当初計画していた確率的主成分分析の導入が行えていない。このため上記の区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
分子動力学法のトラジェクトリなど大規模なデータでは、計算時間の点でREM法に難点がある。結晶構造などの実験によって得られた小規模データだけでなく、シミュレーションによるトラジェクトリデータへの適用を重点的に行い、二手法それぞれの有効性を検討し、高速化も模索したい。また、当初計画していた確率的主成分分析の導入による主成分の効率的な推定についても検討予定である。なお、その手法は集団内変動の表現に制約があるので、用途が集団間変動の推定に限定される可能性が高い。当初は、集団間変動の推定に意義があり、集団内変動は誤差成分相当程度ととらえていたが、2022年度に行った薬物代謝酵素への適用により、集団内変動として集団間に共通の変動が得られることがあることが明らかになった。各手法の特性を明らかにし、適用対象・方法の検討も継続し、本研究の構造階層性を考慮した階層線形モデルの有用性を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
研究計画の進捗の都合で、当初計画していたワークステーションの購入はとりやめたため。ただし、オープンアクセス論文の掲載料が想定していたよりも高額であったために、ワークステーションの購入はもともと難しかった。次年度使用時には進捗状況に応じて、プログラム開発用のマシンを用意するか、あるいは、成果発表に利用する計画である。
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Research Products
(2 results)