2022 Fiscal Year Research-status Report
A study on the effect of dynamical deformation processes on the interannual variation of the sea ice extent in the seasonal ice zones
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22K12341
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
豊田 威信 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (80312411)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 詞明 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (20374647)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 季節海氷域 / 力学過程 / 数値海氷モデル / 変形氷 / 衛星SAR |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は本研究課題の初年度で、1.オホーツク海南部を対象として、海氷を塑性体として扱ったレオロジー理論が海氷の氷厚や体積量の経年変動を説明可能かの検証、2.PALSAR-2画像を用いて北極海の変形氷を抽出するアルゴリズムの可能性の吟味に取り組み、研究方針の妥当性を確認した。 1.について、砕氷型巡視船を用いて毎年2月に25年間実施してきた観測データを基に氷厚やリッジの状況の経年変動を統計的にまとめて理論を検証した。海氷体積量は得られた平均氷厚に衛星データによるこの海域の海氷面積を乗じて求めた。得られた経年変動の力学的な要因を探るため、衛星データから見積もった海氷速度データを用いて解析を行った結果、リッジの部分が海氷全体の体積に占める割合は約70%に達し、平均氷厚や海氷体積量の年々変動を支配するのはリッジの度合いであること、この海域では力学的な過程が氷況に及ぼす影響が大きいため、温暖化傾向があるにも関わらず海氷面積は微増傾向を示すことなどが明らかになった。また、リッジの度合いは塑性体のレオロジー理論に基づく定式化で海氷体積量が顕著な年を明瞭に特徴づけることができた。これらの結果は論文として公表された。 2.について、オホーツク海を対象として開発したアルゴリズムを北極海に適用し、現場観測で得られた氷厚データと比較した結果、海氷の表面形態の著しい季節変化が障壁となることが判明した。そこで、年間を通して海氷が存在するフラム海峡を対象として、後方散乱係数の季節変化を2年間にわたって調べた。表面形態の変化は気象再解析データを用いて熱収支から見積った。その結果、表面融解が進行する夏季は顕著な増加(約7dB)が見られたものの、冬季に限れば比較的安定しており変形氷抽出の可能性が示唆された。 以上の結果により本研究課題の方針の妥当性を示すことができ、今後北極や南極海氷への適用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、季節海氷域化が進む北極海の現状と海氷モデルによる氷況予測精度を改善する必要性に鑑み、海氷のレオロジー理論と観測データの両面から、多年海氷域と季節海氷域の力学過程の違いを吟味して検証し、現在の海氷モデルの問題点を抽出してその改善に資することである。令和4年度はまずは典型的な季節海氷域で長期間継続した観測データが存在するオホーツク海を対象として想定している海氷レオロジー理論の検証を行い、その妥当性をある程度確かめることができた。特に、比較的小さな氷盤が卓越する季節海氷域への適用が想定される等方性塑性理論に基づいた降伏曲線の形状が、海氷速度の観測データを基に見積もられたものと良く合致することを示せた結果は、本研究課題の遂行に当たって意義深いものと考えている。 一方、多年氷が存在する極域については、表面融解が卓越する夏季(5月~9月)を外して冬期間(11月~4月)に限定すれば表面融解による影響は抑えられて、衛星合成開口レーダーを用いて変形氷を抽出することの可能性が示唆されたため、アルゴリズムの開発に向けて希望の持てる結果が得られた。また、海氷漂流速度データについても、分担者(木村)の協力により人工衛星搭載のマイクロ波放射計SSM/IおよびAMSRによる観測画像から海氷漂流速度を計算するアルゴリズムの更なる改良を行い、データセットが整備されたので、令和4年度の成果を二年度(令和5年度)に実施予定の極域海氷に拡張した解析研究に生かせる準備が整った。 当初の計画では初年度と二年度に理論と観測のアプローチを行う予定であったので、初年度の計画を十分に遂行できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、令和4年度にオホーツク海で得られた成果を礎として、解析海域を北極海と南極海に拡張して海氷を塑性体として扱うレオロジーの妥当性の検証に取り組む。具体的には、1.令和4年度に整備した海氷漂流速度分布データを用いて北極海と南極海の各々の海氷域の力学的な特性を見出し、2.フラム海峡の海氷を対象としてPALSAR-2画像の季節変化をさらに一年間追加して調べ、令和4年度の結果を補強して衛星SARを用いて変形氷を抽出するアルゴリズムの開発の基盤を整えることとし、以下の計画を実施する。 1.について、北極海と南極海を海氷の特性を考慮していくつかの海域に区分し、塑性体レオロジーを採用した場合、応力の降伏曲線の形状が各海域でどのように異なるのかを、特に季節海氷域と多年氷域の特性の違いに注視しながら解析する。これは、季節海氷域と多年氷域とでは氷盤の形態が大きく異なるため、海氷のレオロジーや力学的なふるまいに違いが生じることが想定されるからである。両者の違いを応力の降伏曲線の形状を代表するパラメータでどの程度表現できるかを検証することによって、季節海氷域の指標化を試みる。うまくゆけば、季節海氷化が変形氷の度合いの経年変化傾向にどの程度影響を与えているかを、研究協力者が北極海や南極海で取得した観測データを参照しながら吟味したいと考えている。その結果については研究分担者や研究協力者と議論を進める。 2.について、研究代表者はJAXAプロジェクトのPIであるため、PALSAR-2画像を年間20枚無償で入手可能である。この機会を利用してもう一年フラム海峡の同じ海域で後方散乱係数の季節変化を吟味して北極海でPALSAR-2を用いて変形氷域を抽出する実現可能性を確かめる予定である。 なお、得られた解析結果について詳細な議論を行うために研究協力者を訪問して議論を行い、研究成果は学会等で発表する。
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Research Products
(20 results)
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[Journal Article] Improvements of sea ice thermodynamics and salt content parameterizations in an OGCM2023
Author(s)
Toyoda, T., K. Sakamoto, T. Toyota, H. Tsujino, S. Urakawa, Y. Kawakami, A. Yamagami, K. Komatsu, G. Yamanaka, T. Tanikawa, and H. Nakano
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Journal Title
Proceedings of the 37th International Symposium on Okhotsk Sea & Polar Oceans 2023, Mombetsu, Japan
Volume: 37
Pages: 222-225
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