2022 Fiscal Year Research-status Report
土壌-分子応答性電極間相互作用を利用した新規な水分・化学物質センシング技術の開発
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22K12418
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Research Institution | Tokyo National College of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 未希雄 東京工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (60722098)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ATR-SEIRAS / 自己組織化単分子層 (SAMs) / 赤外スペクトルにおける指紋領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
・赤外スペクトルの「指紋領域」のATR-SEIRAS法による計測 指紋領域で高い透過率を有するゲルマニウム (Ge) 製のATR光学基板と、この振動数領域で感度をもつ高感度赤外線検出器 (wide-band MCT) を組み合わせることで、指紋領域での全反射配置での表面増強赤外吸収分光 (ATR-SEIRAS) 計測の実現を目指した。Ge製の半円筒型ATRプリズム上に無電解めっき法によりAu薄膜を製膜し、Au薄膜上にアルカンチオール自己組織化単分子層 (SAM) を吸着させた。アルカンチオールSAMのC-S伸縮振動などが観察される700 cm-1以下の領域の赤外吸収測定をATR-SEIRASにより行った。Geの光学定数より、検出器の測定下限 (450 cm-1程度) までのATR-SEIRAS計測が可能と見込んでいたが、実際には700 cm-1以下の領域での測定は困難であり、従来法の測定と比べて著しい改善は見込めなかった。 ・溶媒蒸気によるSAMの構造変化:構造と分子の極性の関係 本研究の目的は土壌などの固相と接したSAMの構造変化より、間接的に固相中の化学成分を分析することであるが、技術的に直ちに目的の測定を実施するのは難しいと判断した。一方でこれまでに得た液相と接したSAMの構造変化に関する知見を補足する又はこれに相補的な知見を得ることは有用と判断し、様々な極性または分子サイズをもつ分子の蒸気に暴露したSAMの構造変化について調査を行った。アルカンチオールSAMの末端のC-S結合の回転異性体の割合に着目すると、溶媒分子の極性が増すほどアルキル鎖に対しS原子がゴーシュ位の位置にある分子の割合が増えた。SAMが液体の溶媒に接している場合は、極性が低いほどSがゴーシュ位にある割合が多いので、溶媒蒸気に暴露された場合と液体の溶媒中のSAMの構造変化は対照的であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
指紋領域で高い透過率を有するゲルマニウム (Ge) 製のATR基板と、この振動数領域で感度をもつ高感度赤外線検出器 (wide-band MCT) を組み合わせることで、指紋領域でのATR-SEIRAS計測が実現すると予想した。実際にはGe基板が特に700 cm-1以下の振動数領域で光学定数から予想されるより低い透過率を示し、十分な感度での測定ができなかった。この原因はGe基板を製造する際に含まれる酸化物の吸収によると思われる。 SAMの構造変化と、SAMと接している固相の化学成分の相関を得る方法については、まだ実証実験ができていない。溶媒蒸気と暴露したSAMの構造変化の研究では、液体の溶媒中のSAMの構造変化と対照的な構造変化を示した。この成果は興味深いものと考えているが、この挙動をSAMと気相中の溶媒分子との相互作用という観点から説明するには至っていない。 以上の様に新しい知見は得られたものの、それが本研究の課題解決に寄与するには至っておらず、本研究はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
指紋領域でのATR-SEIRAS計測が実現しなかった原因は、Ge基板に含まれる酸化物が赤外光の透過を妨げているためと予想した。酸化物の含有量は光学基板のメーカーおよびロットにより依存すると考えられ、根本的な解決には基板内を赤外光が通過する光路長を短くすることが必要である。現在はマクロサイズのATR基板 (光路長20 mm) を用いているが、これをマイクロサイズのATR基板が集合したATRプリズムアレイに置き換えて光路長を最大1/10程度にすれば、指紋領域における吸収の影響を抑えてこの領域におけるATR-SEIRAS測定が実現すると期待している。またATR基板をGe等とそれより低屈折率の高分子材料との2層からなる複合材で形成することも検討している。Ge等の従来のATR用光学材料を平坦な基板として用い、その上に高分子材料によるマイクロプリズムアレイを形成することで、直接Ge等を加工する場合と比較して加工性が向上すること、および高分子材料が反射防止膜の役割を果たし、赤外光の高スループットが実現することが期待される。 SAMの構造変化の研究については、まず溶媒分子と接したSAMの構造と分子極性の相関について、SAMと溶媒蒸気との相互作用という観点から説明を与えることが必要である。分子の極性のみならず分子サイズや形状 (扁平率) との相関にも着目する必要があると考えている。
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Causes of Carryover |
研究計画にあった、金属薄膜電極を作製するための真空蒸着装置を導入できなかったためである。これは実際の交付額と先に購入した高感度検出器の金額の関係で、予定していた真空蒸着装置を購入する費用が捻出できなかったことによる。代替となる装置の導入を検討していたが、仕様の決定と購入には至らず現在に至っている。
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