2022 Fiscal Year Research-status Report
A Development Studies of Infrastructure
Project/Area Number |
22K12513
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊東 早苗 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (80334994)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 質の高いインフラ / ダッカメトロ / 通勤車両 / バングラデシュ / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
アジア諸国で実施される日本政府のインフラ投資事業について、文献調査を実施した。特に、本研究の中心事例となる「バングラデシュMRT新型通勤車両6両編成(通称ダッカメトロ)」について資料を収集し、2022年12月末の一部区間開通にあわせた現地での報道や、識者の見解をネットで入手可能な情報により調査した。2023年3月に現地を訪問し、実際に新車両に乗車し、経路の確認、駅および車両の外観、駅スタッフの配置、乗客の様子等について予備調査を行った。さらに、本線の運営を掌るDhaka Mass Transit Company Limitedの関係者、交通工学の専門家、日本とバングラデシュの外交に精通する専門家にインタビュー調査を実施した。この他、現地調査では、開通したメトロ周辺のスラム住民の生活を参考のために視察し、住民から話を聞いた。メトロ自体の存在は、現時点で、彼らの生活にほとんど影響がないものの、コロナ禍の影響および昨今の物価高の影響により、住民の生活は悪化していることがみてとれた。 なお、予備調査の結果、ダッカメトロの建設と運営が、日本が円借款を通じて支援し、2002年にインドで開業した「デリー高速輸送システム建設事業(通称デリーメトロ)」に倣う部分が大きいことがわかった。ダッカメトロのスタッフがデリーに派遣されて研修を受けている他、デリーからも技術者がダッカを訪問する等、様々な相互交流がなされている。デリーメトロは「質の高いインフラ投資」の成功事例として大きく広報されており、その詳細な「プロジェクト・エスノグラフィー」も書かれている。一方で、ダッカメトロは未だごく短い区間での限られた時間帯における運行のため、ダッカ市民による乗車経験が日常化しているとはいいがたい。今後、デリーメトロに関する資料を有効に活用しながら、ダッカメトロの進捗状況を観察したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度途中まで、コロナ禍の影響により、海外出張を控えていた。2022年12月に、ダッカメトロの一部区間が開通し、バングラデシュ国内外で多くの報道がなされた。ダッカ市民が初乗りに殺到する様も報道されたため、この臨場感を現地で体験する機会を逃してはならないと判断し、1週間の予備調査に踏みきった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の予備調査で得た知見から、解明すべき内容を精査し、調査地と対象者を絞り込む。特に、日本側でダッカメトロの開発に関わった関係者から話が聞ける方法を考えたい。また、ダッカメトロに先立ち、すでに開通後20年が経過しているデリーメトロについての分析が、本研究にとって重要な意味をもつことがわかったため、デリーメトロに関する資料調査を実施する他、可能であれば、デリーでの現地調査も実施したい。さらに、本調査では、開発協力を通じた「技術移転」と同時に、異文化に移転される「通勤体験」(時間概念、行動様式、他者との関係性等)を問題にするため、日本社会における通勤電車とその利用体験について、文献調査、インタビュー調査および参与観察を組み合わせて分析する。
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Causes of Carryover |
昨年度中はコロナ禍の余波により、海外出張の期間を短縮した。また、ダッカメトロに関する資料はオンラインで手に入るものが多かったため、購入する書籍自体も少なかった。2023年度は、海外調査の期間を延長する可能性がある他、分析の枠組みを広げ、「インフラストラクチャーの人類学」や「インフラ援助」に関する専門書の他に、「技術と開発」についての理論を扱う専門書の購入を予定している。
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