2023 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける移民の労働環境と移民制度改革に関する研究
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22K12522
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Research Institution | Takushoku University |
Principal Investigator |
中島 醸 拓殖大学, 政経学部, 教授 (00401670)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | アメリカ / 移民政策 / バイデン政権 / 短期就労ビザ / H-2B / 労働政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、アメリカ、バイデン政権における移民労働者を中心とした労働関連政策と、アメリカ国内における移民の受け止めを中心に研究を進めてきた。 2021年に成立したバイデン政権は、労働者の権利拡充を重視する立場を明確にし、そのための制度改革を検討するタスクフォースを立ち上げた。アメリカ国内の労働者全般に関するタスクフォースを2021年4月に、また短期移住労働者向けビザプログラムのH-2Bプログラムに関するタスクフォースを2022年10月に創設した。前者については、そのタスクフォースの一環として2023年8月にアメリカ財務省が発表した報告書に関する論考が2023年12月に『JP総研リサーチ』に掲載された。本論考では、労働組合の経済への積極的効果について多くの実証研究で明らかにされていると報告書が論じた財務省の姿勢の背後に、労働組合の社会的課題への積極的な姿勢や市民の中での肯定的評価の高まりが存在することを指摘した。後者については、2023年10月にホワイトハウスが、現行のH-2Bプログラムの制度上の問題を明らかにし、移民労働者の権利と生活、労働環境を保護・改善するための提言をまとめている。こちらに関しては、現在、研究を継続している段階である。 アメリカ国内での移民の受け止めに関しては、2024年3月の「アメリカ政治経済研究会」(関西大学梅田キャンパス)において「白人『エスニック・アイデンティティ』と移民政策」と題する報告を行った。近年のアメリカでの移民排斥的な勢力の顕在化の背景として、一部白人層において、中南米系移民・人口の増加を受けて白人がマイノリティ化するのではないかという不安が存在することが指摘されてきた。この点について、報告では、移民労働者の生活者としての受け入れ環境において、白人層の反応が重要である点、グローバル化の中での白人層の分岐が影響している点に触れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2023年度では、当初、H-2Bプログラム改善をめぐる政策立案の考察が予定されていた。そこで想定されていたのは、アメリカ連邦議会において2010年代以降、提案されてきたH-2Bプログラムの改革にかかわる法案内容とそれをめぐる議員たちの行動や、移民労働者プログラムに対する利害関係などを考察することであった。しかし、実際には、2023年度は、バイデン政権の政策分析に多くの時間が割かれた。2021年から22年、23年とバイデン政権は、立て続けに本研究課題である移民労働者と短期就労ビザにかかわって重要な、労働者全般に関する保護政策と短期就労ビザであるH-2Bプログラム改善に関する政策を具体的に提案しており、研究の中心が立法府から行政府(ホワイトハウス)の政策構想へと移った。そのため、今年度初頭に想定していた議会や議員、利害関係などの考察に遅れが見られることとなった。また海外調査についても、当初の予定とは異なり、政権分析を行うことが優先されたため、調査内容等を再検討する必要もあったことから実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、バイデン政権の政策提案を中心に検討するという形で研究の方向性を変更したが、特にバイデン政権のH-2Bプログラム改善提案に関する考察が十分に行われていないため、引き続きそちらの課題についての研究を進める予定である。また、同時に、アメリカ連邦議会でのH-2Bプログラム改革法案にかかわる研究も進めていく。移民労働者の労働環境に関する研究はその後可能な範囲で進めていくことになる。海外調査に関しては、研究の重点を変えたことから訪問先や調査内容も変更を余儀なくされている。改めて検討し直し、調査を進める予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度では、予定していた研究会や学会での国内出張をオンラインで参加したことと年度末の出張となったため費用が次年度への計上となったことにより、国内旅費の使用が予定金額に達しなかった。この点と、海外調査ができなかったことが主たる理由となり、次年度使用額が生じた。2024年度においては、出張旅費ならびに、必要な文献や資料も多く存在するため、そうした使途で使用予定である。
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Research Products
(1 results)