2023 Fiscal Year Research-status Report
ベトナムの枯れ葉剤被害者家族の生活実態と支援政策に関するフィールドリサーチ
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22K12546
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Research Institution | Tohoku Fukushi University |
Principal Investigator |
生田目 学文 東北福祉大学, 総合マネジメント学部, 教授 (40347901)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石野 莞司 東北福祉大学, 総合マネジメント学部, 教授 (20259261)
桑原 真弓 東北福祉大学, 総合マネジメント学部, 教授 (20296015)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 枯れ葉剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
南部ドンナイ省と中部コントゥム省は、ベトナム戦争でいずれも激戦地であり、枯れ葉剤が大量に撒かれた地域でもある。これら2つの地域で実施された調査結果の一部を報告する。 1. 全国の5分位所得階層分布のデータを用いて枯れ葉剤被害者家族(各調査地とも15世帯)の所得階層について調べると、ドンナイ(DN)では、Q1(最貧困層)が4世帯、Q1~Q2 が4世帯、Q2~Q3 が3世帯、Q3~Q4が2世帯、Q4 ~Q5が2世帯であり、コントゥム(KT)では、Q1が8世帯、Q1~Q2 が4世帯、Q3~Q4が2世帯、Q4~Q5が1世帯となっている。両地域とも貧困世帯(Q1とQ1~Q2)が多く、その比率はDNで53%、KT で80%と、KTの方がより深刻な貧困度になっている。コントゥム省はベトナム全土で貧困率が最も高い省であるが、枯れ葉剤被害者家族も同様な貧困状態におかれている。 2. 南部と中部で枯れ葉剤の影響を受けた人々は、元兵士とその家族だけでなく、参戦しなかった住民(以下C)もいる。前者には旧南ベトナム解放民族戦線兵士(LF)、旧ベトナム人民軍兵士(VP)、旧南ベトナム政府軍兵士(SG)という軍歴の分類があり、軍歴の有無・違いによって、経済格差が生じている。DNでは、CとSGの全家族7世帯が貧困層(Q1、Q1~Q2)に属し、LFの家族8世帯はQ1~Q5の階層に分散している。KTでは、Cの全家族2世帯とLF6世帯がQ1に属し、残りのLFとVP7世帯がQ1~Q5の階層に分散している。 3. 公的扶助、とりわけ枯れ葉剤被害者手当(AOV)と一般障がい者手当(PWDs)の受給に関して、LFおよびVPのグループ(G1)とCおよびSGのグループ(G2)との間に、大きな格差が見られた。DNではG1の全家族、KTではG1の大半(85%)がAOVを受給しているが、G2の全家族はPWDsしか受給していない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度に予定していたベトナム南部のドンナイ省における枯れ葉剤被害者家族へのインタビュー調査は,諸般の事由により実施できなかったが,令和5年10月に実現することができた。さらに,中部コントゥム省でのインタビュー調査については,当初の予定より遅れたものの,令和6年1月に実施することができ,結果として令和4年度の研究の遅れを取り戻すことができた。 上記2省におけるインタビュー調査のテープ起こしを行った上でデータ化を図り,現在それらの調査結果に基づいた分析を進めており、ドンナイ省の事例研究については概ね完了しているが,コントゥム省に関しては詳細な分析にまでは至っていない。このため,現在までの研究の進捗状況は,おおむね順調に進展していると見なされる。
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Strategy for Future Research Activity |
ドンナイ省のインタビュー調査を完了したことから,平和中島財団の研究助成を得て実施した南部タイニン省を加えたベトナム南部における事例研究を発展させて論文として公表する計画である。また,本年9月には研究計画通りに中部クアンチ省でのインタビュー調査を行う予定である。 次に,令和5年度に実施したコントゥム省の調査結果と令和6年度にクアンチ省で得られる調査結果に基づいて,ベトナム中部2省における枯れ葉剤被害者家族の現況について論文としてまとめる予定となっている。 さらなる研究課題として,これまでの研究実績と科研費研究で実現されるインタビュー調査の結果と分析を総合し,ベトナムにおける枯れ葉剤被害者家族の現況について, 北部,中部,南部の地域間の比較・検討を加えることで共通する課題や異なる問題を提起するととともに,政策提言を行い,一連の調査研究を完結させたいと考えている。
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Causes of Carryover |
実際の旅費と見込額との間に差が生じたため。
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